中学の「武道必修化」スタート目前 「柔道」安全対策に大きな課題

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   2012年4月から中学校の体育の授業で「武道」が必修になる。

   柔道、剣道、相撲の3種目から学校で1つを選択して中学1、2年生の生徒に教えるというものだ。準備などが比較的簡単な柔道を選択する学校が最も多いと見られている。ところが安易に柔道を選択することは危険だという見方がある。

文科省「十分な研修で指導可」、柔道連盟「もっと安全面に注意を」

   2012年1月10日放送のNHKニュース「おはよう日本」は武道必修化、特に柔道についての特集を放送した。

   放送によると、中学校で起こった柔道の事故は、1983年から2010年までの28年間で死亡39件、障害93件にのぼる。事故の大半は投げられた時に受け身が上手く取れず頭や首を強く打ってしまうことが原因だ。

   文部科学省の石川泰成・教科調査官は「先生方が十分に研修を積んで指導力を向上し、力を付ければカリキュラムの内容については指導できる」「段階的な指導を安全に行うことで大きな事故やけがのない学習指導ができる」と話した。

   しかし、全日本柔道連盟の二村雄次・医科学委員会副委員長は「体力の付いていない中学1、2年生に形の上の技だけ教えて乱取り(自由に技をかけ合う柔道の練習法)とか試合までやらせるのは危険がつきまとうと思う。安全面にもっと注意した制度設計をしないといけない」と警鐘を鳴らした。

   武道の必修化についてはこれまでにも安全性の面から疑問視する声が上がっていた。名古屋大学の内田良・准教授は2010年3月に「柔道事故―武道の必修化は何をもたらすのか―」という論文を発表し、過去の事故のデータなどを参照した上で、学校安全は柔道の危険な実態を見逃してきたと指摘した。

   哲学者の牧野紀之氏は11年9月に「危険はらむ武道必修化」というタイトルのブログを更新し、「もし必修化を強行するなら、『日本の文科省は子供の命より面子が大事だ』と世界に発信することになる」と厳しい意見を述べている。

復興すべき伝統文化は「異常な武道」?

   これほど危険性が叫ばれている中で、なぜ武道が必修化されるに至ったのだろうか。

   そもそも武道の必修化は安倍晋三・元首相が推し進めた教育改革の一環だった。2006年12月に改正された教育基本法に、教育の目標として「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」が新たに規定され、武道が「伝統と文化を尊重する」という目標を実現する役割を担うかたちで、08年3月改訂の中学校学習指導要領に必修化が明記されたのだった。

   当時から政策としての武道必修化を批判する声は上がっていた。思想家・武道家の内田樹氏は07年9月に「武道の必修化は必要なのか?」というタイトルのブログを更新し、伝統文化への回帰を目的とした武道が「戦前の武道」のことだろうと前置きした上で「明治維新のときに伝統的な武道文化はほぼ消滅した。(中略)そのあと復活したのは『強兵』をつくるために特化された『異常な武道』である。(中略)『異常な武道』を中教審が『復興すべき伝統文化』だと考えているのだとすれば、それは短見であると言わなければならない」と指摘した。

   保坂展人・現世田谷区長も、区長になる前の07年9月のブログで、安倍氏の教育改革が目指す伝統文化が武道に絞られていること、武道必修化の根拠があいまいであることに言及し「『各学校に自衛隊幹部を武道・徳育サポーターに起用』あたりから始まって、『有事に必要となる自衛術の一貫としての軍事教練』、『自衛隊体験入隊でボランティア訓練』などを実現したいと考えてきたのが安倍内閣の『復古派』ではなかったのかと想像してしまう」と述べている。

   「伝統文化の尊重」という目的が一人歩きし、安全対策が不十分なまま武道必修化の日は着々と近付いているというのが現状のようだ。

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