復興すべき伝統文化は「異常な武道」?
これほど危険性が叫ばれている中で、なぜ武道が必修化されるに至ったのだろうか。
そもそも武道の必修化は安倍晋三・元首相が推し進めた教育改革の一環だった。2006年12月に改正された教育基本法に、教育の目標として「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」が新たに規定され、武道が「伝統と文化を尊重する」という目標を実現する役割を担うかたちで、08年3月改訂の中学校学習指導要領に必修化が明記されたのだった。
当時から政策としての武道必修化を批判する声は上がっていた。思想家・武道家の内田樹氏は07年9月に「武道の必修化は必要なのか?」というタイトルのブログを更新し、伝統文化への回帰を目的とした武道が「戦前の武道」のことだろうと前置きした上で「明治維新のときに伝統的な武道文化はほぼ消滅した。(中略)そのあと復活したのは『強兵』をつくるために特化された『異常な武道』である。(中略)『異常な武道』を中教審が『復興すべき伝統文化』だと考えているのだとすれば、それは短見であると言わなければならない」と指摘した。
保坂展人・現世田谷区長も、区長になる前の07年9月のブログで、安倍氏の教育改革が目指す伝統文化が武道に絞られていること、武道必修化の根拠があいまいであることに言及し「『各学校に自衛隊幹部を武道・徳育サポーターに起用』あたりから始まって、『有事に必要となる自衛術の一貫としての軍事教練』、『自衛隊体験入隊でボランティア訓練』などを実現したいと考えてきたのが安倍内閣の『復古派』ではなかったのかと想像してしまう」と述べている。
「伝統文化の尊重」という目的が一人歩きし、安全対策が不十分なまま武道必修化の日は着々と近付いているというのが現状のようだ。