オウム真理教元幹部の平田信容疑者が出頭前、JR品川駅(東京都)の防犯カメラに映っていた、と報じられている。品川駅といえば、1日平均32万人以上が利用するマンモス駅だ。どうやって特定したのだろうか。
可能性として考えられるのは、「顔認証システム」の利用か「捜査員の目」だ。「顔認証システム」は、大勢が行き交う人混みの映像の中で特定の人物を発見できる程の精度なのだろうか。
「顔認証システム」はスマホのロック解除にも使われる
2012年1月5日から6日にかけて全国紙各社が報じた記事によっては、防犯カメラに映っていた人物が平田容疑者とは断定せず、「とみられる男」「よく似た男」としているものもある。いずれにせよ、警視庁が防犯カメラの映像を取り寄せて分析中だという。
「正面から撮った顔写真があれば、防犯カメラ映像から写真の人物を検索することは可能といえば可能です」
「顔認証システム」を2002年から実用化しているNECの広報担当者は、「様々な条件がつくが…」とした上でこう答えた。NECは、2010年には米国の評価機関により、顔認証の精度「世界一」と認定されている。
仕組みを大雑把に説明すると、データとして取り込んだ正面写真を3D(三次元)シミュレーションして「顔のデコボコ」を数値化した上で、防犯カメラ映像などと比べて判定する。
顔認証は、今や一部のスマートフォンのロック解除にも用いられるほど浸透している技術だ。成田空港などの国際航空でも犯罪者の入国防止に使われている。NECの技術(顔・指紋認証)は、香港の入国管理局も採用している。
最後は人の目で確認する?
NECの多くの「顔認証」導入例では、指紋認証などを組み合わせて精度を高めている。顔認証に限れば「96~97%」の精度だ。眼鏡をかけたりひげを生やしたりして「変装」しても見破ってしまう。ただ、元データと付き合わせる映像の方も正面のものがある場合の数字だ。
映像に横顔が映った程度だった場合などは、精度は下がる。「似ている率」は、「50%」「80%」などと設定が可能だ。防犯カメラから特定の人物をさがす例を考えると、ある程度似ている人物を顔認証システムでリストアップし、「最後は人の目で確認する」という形が自然のようだ。
今回の平田容疑者の例では、防犯カメラ映像に正面からの映像が映っていなかった場合も考えられ、顔認証システムに詳しいある関係者は「結局、捜査員が苦労して見つけ出したのではないか」と話した。
防犯カメラ映像の分析の場合には関係ないが、入退室管理のセキュリティデザイン社(東京都)が扱う3D顔認証システムでは、「双子の微妙な違いも見分けることができる」(同社)。勿論、「いくつかの条件を満たせば」だ。
顔認証システムを防犯カメラ映像に使う場合、防犯カメラの映像精度の方も問題になる。こちらの精度も向上している。また、防犯カメラ映像を拡大する技術も進んでいる。従来方式では2~3倍以上に拡大すると画像が不鮮明になったが、NECは2011年12月、「4倍以上に拡大しても鮮明」な「超解像技術」を発表した。
「監視カメラはプライバシーを奪う」の指摘も
防犯カメラはどの程度、導入されているのか。国土交通省によると、2011年3月末現在で、全国の駅(JRや地下鉄など)に計5万6000台が設置されている。また東京都は、都内の商店街などが防犯カメラを設置する際に補助金を出しており、04年度から10年度までの間だけで、対象は2975台に上る。
防犯カメラをめぐっては、「監視カメラが市民のプライバシーを奪う」として心配する声もある。福岡県弁護士会は2009年夏、「法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明」を発表し、警察庁などへ送った。
同弁護士会の武藤糾明弁護士に聞いてみると、監視カメラ大国イギリスを含め、日本でもカメラの防犯効果や検挙効果について、「確認できない」「有効性に疑問」といった検証結果が出ていると指摘した。犯罪場所がカメラ設置場所以外に移っただけ、といった内容だという。
「プライバシーがどんどん狭められていく副作用の方が大きい。監視カメラの『効果』について、思い込みでなく冷静に数字も見ながら判断をするべきだ」
と指摘した。