スマートフォン(スマホ)の普及が進むにつれて懸念されるのが、データ通信のトラフィックの増加だ。動画をはじめ大容量データのやり取りが増えており、このままでは回線がパンクする恐れも指摘されている。
米国では2010年以降、大手携帯電話会社が相次いで「データ通信定額制」を廃止し、一定量を超えると課金される従量制の料金体系に移行した。国内の携帯電話会社も、米国の動きに追従する可能性がある。
米国では上限オーバー恐れて3G回線使わない工夫
「定額制」廃止に最初に踏み切ったのは、米AT&Tモビリティだ。2010年6月にデータ通信の料金プラン変更を発表、月額15ドル(約1155円)で200メガバイト(MB)、25ドル(約1925円)で2ギガバイト(GB)、45ドル(約3465円)で4GBとそれぞれ利用可能なデータ量の上限を設けた。超えた場合は追加料金を徴収される。AT&Tのウェブサイトを見ると、15ドルプランの場合はテキストメール1000通分の送受信、ウェブサイト400ページ分の閲覧、SNSへ50枚の画像投稿、動画サイトの閲覧20分間が、それぞれ可能だという。
以前は無制限にインターネットを利用できたところへ、突然の変更だ。米携帯電話最大手ベライゾン・ワイヤレスも2011年7月、AT&Tを追うように定額制から従量課金制へと移行している。J-CASTニュースでは、複数の在米スマートフォン利用者に取材し、料金プラン変更にともなう影響を探ってみた。
シアトル在住の主婦はもともと定額制で「アイフォーン(iPhone)」を使っていたが、2011年11月に「iPhone 4S」へ乗り換えるタイミングで契約をAT&Tからベライゾンに変更、現在は「月額30ドル、2GB」の従量制プランだ。ネット接続は1日3時間程度で、ユーチューブも30分程度は視聴するというが「上限はオーバーしていない」と話す。過去も2GBを超えたことはなく、制限がかけられた今も特にストレスは感じていないようだ。
一方シカゴで勤務する男性会社員は、周囲には上限オーバーを気にする同僚がいると明かす。地図の表示など比較的データ量が多い場合は3G回線の使用を避けるため、自宅の無線LANや無料Wi-Fiスポットであらかじめダウンロードしているという。これなら回線料金がかからないためだ。カリフォルニア州に住む女性も、メール受信を手動に切り替えて、自動的に回線につながらないように工夫していると打ち明ける。
スマホのトラフィック量は従来型携帯の24倍
国内では現在、スマホを契約すると必ず「定額制」のプランに加入しなければならない。携帯電話各社は、基地局を増設して電波状況の改善に努めるが、スマホの利用者数は右肩上がりで増えている。
総務省移動通信課は、スマホが生み出すトラフィック量は従来型携帯の24倍だと説明。2015年末までにスマホの契約者数が約半数に達するとの調査結果を引用しながら、移動通信によるトラフィックの爆発的増大を懸念している。端末は増え続け、「定額制」が維持されると通信量は膨れ上がる一方だ。
3G回線への集中を避けようと、NTTドコモでは次世代高速通信サービス(LTE)を2010年12月にスタート。対応するスマホやタブレット型端末も発売されたが、2011年末時点で接続可能な場所は東京や大阪、名古屋の限られた地域にとどまっている。ソフトバンクモバイル(SBM)は、2011年11月1日から東京メトロ全線の駅構内で無線LANサービスの提供を開始した。「電波不足」の打開に各社とも知恵を絞るが、今後LTEやその先の「4G」への移行がスムーズに進まなければ、抜本的な改善にはならないだろう。
SBMの孫正義社長は、2011年7月28日の第1四半期決算発表の席で、定額制について興味深い発言をした。スマホの急増によりネットワークの混雑が深刻化しているが、原因はわずか数%のユーザーによる大容量データ通信で、残り9割以上の利用者にとって「迷惑行為」になっている点を指摘した。欧米では完全定額料金が「むしろ不公平だという流れがあり、我々も注視している」と明かす。そのうえで「いずれそういう(定額制ではない)料金体系をとらないと、90%以上の利用者にご迷惑をかける」と話し、従量制への移行も場合によってはやむなしとの考えをにおわせた。
今後、孫社長の指摘するような「数%のユーザーによる占有」を巧みに解消し、大多数の利用者にとっても納得できる料金プランが提供できるかが、携帯電話会社の腕の見せ所になりそうだ。