スマートフォン(スマホ)は、人々の「ケータイライフ」に大きな変化を起こしつつある。一方で、回線の混雑やウイルスといった問題点も浮かび上がって来た。
モバイル通信機器の主役として、スマホは2012年にどのような変革を社会にもたらすのか、シリーズで考えてみた。
合同説明会で気に入った企業にすぐエントリー
就職活動中の学生Aさんは、スマホを片時も離さない。希望する企業のウェブサイトやナビサイト、ツイッターを巡回して、会社説明会の日程をこまめに確認、外出先でも予約をとる。人気企業はすぐ満席になってしまうので、機会を逃すわけにはいかないのだ。
電車の中で「フェイスブック(FB)」を開き、企業のページで情報収集をする。「友達」の中には就活中に知り合った人や、就職を目指す会社の人もいる。就活での悩みや相談ごとを打ち明けるだけでなく、相手によっては「有益な情報」を引きだすことも可能だ。パソコン(PC)と同じコンテンツが見られ、SNSとの親和性が高いスマホの利点を、就活に生かしている。
2011年4月の調査では、首都圏の就活生の所有率が約4割に上り、「スマホは就活に有利」と答えた人は85%に迫る。
2013年春卒の学生の就職戦線は、これまでより2か月遅れで2011年12月1日に本格スタートした。長引く就職難に加えて、短縮された活動期間という「悪条件」の下、スマホはひとつの武器だ。採用コンサルティング「HRソリューションズ」が2011年4月16~18日に実施した就活生のスマホ利用調査によると、「外出先から会社説明会の応募やエントリーがしやすい」「PCサイトの閲覧ができる」「複数のメールアカウントが使える」といった点を評価している。
インターネットの「就職ナビサイト」や、「みん就」のように学生同士が情報交換をするサイトで情報を集めるスタイルは、既に定着している。携帯電話を使ってこれらの「簡易サイト」に接続、閲覧していた人もいただろう。「スマホと比較して、従来型の携帯電話だとできないことは、実はそれほど多いわけではない」と人材コンサルタントの常見陽平氏は話す。最近の就活で注目を浴びているツイッターやFBも利用可能だ。
しかし「使い勝手」や、アクセスできるコンテンツ量はスマホに軍配が上がる。特にSNSとの親和性は高い。就活でのメリットとして常見氏は、学生同士が連携をとりやすくなった点を挙げる。
「例えば就職説明会で知り合った人がいれば、スマホでFBアプリを開いて検索し、相互に承認して『就活仲間』を増やしていくのです」
これならメールアドレスを交換する手間が省け、「同志」を気軽に見つけやすい。他大学の仲間がいれば、刺激にもなる。ほかにも合同説明会に出席した学生の中には、ブースを回って気に行った企業があれば、スマホからその場でエントリーし、会社説明会の予約まで済ましてしまう人もいるそうだ。
高性能化したスマホならではの利用法も考えられる。例えば「模擬面接」だ。動画で自分の話しぶりを撮影、確認したり、アイフォーン(iPhone)の「フェイスタイム」のような「テレビ電話」機能を活用して、友達同士で自己PRや志望動機をどうアピールするかを互いに練習できる。
フェイスブックが就活生との窓口として機能
スマホの登場で、PCによるネット接続に近い環境を移動中にも得られるようになったのは、就活中で一刻を争うケースで効果を発揮する。例えば会社説明会の申し込みだ。ツイッターやFBで「予約受付開始」の情報を見かけたら、外出中でもその場で会社のサイトにアクセスして応募できる利点がある。
国内でスマホが急速に広まっていく時期は、ちょうどツイッターやFBの利用者が拡大している時期と重なった。2011年は企業側もFBのページ開設が増えたが、これは採用活動開始日が12月1日にずれたことも関係しているようだ。「解禁日」より前に説明会を開くわけにはいかないが、優秀な学生は確保しておきたい。そこで就活生と接触する窓口としてFBを利用するのだと、常見氏は説明する。現時点でFBはまだ「グレーな存在」で、例えば就活生にOB・OG訪問の情報を提供するような使い方が考えられる。
ただし「落とし穴」もある。ツイッターでは最近、自身の交通違反や他人の悪口を書き込こんだせいで他のユーザーから批判を浴び、実名とともに「さらし者」にされる事例が後をたたない。例えば面接が不成功だった腹いせに、友人に愚痴を漏らす感覚でツイッターにその会社を批判する書き込みをしたら、取り返しがつかなくなるだろう。企業にとっても、FBでの情報発信が乏しかったり対応がおろそかだったりすれば、「時流に乗り遅れた会社」との烙印が押されかねない。
スマホで手軽にネット接続が可能になったが、やはり過度の依存は禁物だ。常見氏も、「就活の本質は今も昔も変わらない。実際に人と会って話す経験は、ネットでは得られないもの」と強調する。