大王製紙の井川意高前会長への巨額融資事件をめぐり、同社が発表した再発防止策の中で、連結子会社の創業家の持ち株比率引き下げの行方が注目されている。
創業家の支配から脱却するための第一歩だが、現経営陣は「大番頭」の佐光正義社長はじめ、不正をチェックできなかった「イエスマン」ばかり。果たして創業家から株を取り戻せるのか。
株式の売却益で巨額融資の返済を要請
「創業家とは利害が一致する。話し合いは十分に可能だ」
佐光社長は2011年12月14日の記者会見で、連結子会社の創業家の持ち株買い取りに自信を見せた。
大王製紙の国内連結子会社35社のうち、大王製紙本体が50%超を持つのは3社だけ。残る32社は意高氏や意高氏の父で2代目社長の高雄氏ら井川一族とそのファミリー企業が過半数を握る。このいびつな資本構造が創業家に逆らえない企業風土を生み、子会社が前会長に言われるがままに100億円超を供出する事件につながった。
佐光社長は来年3月末までに、創業家から32社の保有株式を「適正価格」で買い取り、創業家の議決権を50%未満に下げる方針だ。既に「株式の評価を終え、先方に具体案をぶつけた」といい、双方の弁護士間で交渉が進んでいる。大王製紙は創業家に対し、株式の売却益で巨額融資を返済することも要請している。
「息子の問題でなぜ辞めなければならないのか」
ただ、大王製紙を業界屈指の家庭紙メーカーにのし上げた高雄氏の説得は困難を極めそうだ。高雄氏は、巨額融資問題を調査した特別調査委員会が報告書を発表した10月28日の前日、佐光社長から顧問を辞任するよう迫られ、「息子の問題でなぜ自分が辞めなければならないのか」と激しく反発したという。
そもそも、佐光社長は長年、高雄氏の薫陶を受け、「意高氏のサポート役として社長に抜擢された『大番頭』」(業界関係者)。高雄氏に引導を渡せるのか、不安視する向きは多い。
佐光社長は会見でも、
「創業家の良きところはくみ取り、悪いところは正す」「創業家が将来、復帰する可能性もゼロではない」と、創業家に配慮した発言に終始した。
創業家が支配する連結子会社の中には、ティッシュペーパーの製造など主力事業を手がける重要な企業も多い。もし創業家と円満解決できず、こうした子会社との関係にひびが入れば、主力事業にも影響しかねない。業界では「創業家の機嫌を損ねないよう、佐光社長も必死なのだろう」(製紙メーカー幹部)との見方が広がっている。
しかし、創業家への甘い顔ばかりが目立つと、市場で失われた信頼の回復は難しい。創業家に配慮しながら、市場には創業家との決別をアピールする――。佐光社長に課せられた任務は重い。