日本商工会議所が「税と社会保障の一体改革」について「消費税の引き上げのタイミングや幅については慎重な対応が必要だ」とする提言をまとめ、政府・与党に申し入れた。日商は「過去の消費増税が経済成長にマイナスの影響を与えた」と、データを基に主張している。
万一、消費税を引き上げる場合は「デフレ脱却の実現や、中小企業に対する負担軽減策が不可欠だ」と、政府・与党に求めている。
東商会員の9割は中小企業
政府税制調査会と民主党税制調査会は税と社会保障の一体改革をめぐり、大詰めの議論を行っている。経済3団体の中で唯一、現在も消費増税に慎重姿勢を示す日商は政府・与党に様々な注文をつけており、年末の議論に与える影響が注目される。
東京商工会議所の場合、会員の約9割を中小企業が占めるなど、日商は大企業中心の経団連や経済同友会と構成メンバーが違うため、政策のスタンスも微妙に異なることが多い。今回も日商は「売上高が5000万円以下の小規模・零細事業者の6割以上は消費増税を価格転嫁できない」とする実態調査を挙げ、中小企業に配慮するよう求めた。
売上高1000万円以下の事業者の消費税を免除する免税点制度と簡易課税制度の継続を求めたほか、複数税率とインボイスの導入には「事務作業が繁雑になって混乱が予想される。現行制度でも透明性は十分確保されている」などとして、反対を表明した。
経団連や経済同友会とは一線を画す
日商はかつて山口信夫・前会頭の時代は消費増税に明確に反対していたが、現在の岡村正会頭となった2008年10月、社会保障の財源として消費税を引き上げることを容認する立場に転じた。日商はこれを「条件付き容認」と説明。「消費増税は飽くまで社会保障の財源としてなら、引き上げもやむを得ないが、財政再建などに用いるのは言語道断」という立場だ。この点、経営者の立場から積極的な消費増税を求める経団連や経済同友会とは一線を画している。
経団連や経済同友会の間では「日商が消費増税に反対していては、政府も消費増税を実現できない。日商が『条件付き容認』に転じてくれただけでも大きな進歩で、日商が求める中小企業の負担軽減策については反対などできない」との本音が聞こえる。
消費増税によって、社会保障など企業側の負担を減らしたい経団連や経済同友会にとって、「2010年代半ばまでに消費税を段階的に10%に引き上げる」とした民主党政権の公約実行は「待ったなし」だが、日商はこの限りでない。民主党内では小沢一郎元代表のグループが消費増税反対の署名を集めるなど、増税に反対する動きも出ている。消費増税を含む一体改革の越年も取りざたされており、今後の行方が注目される。