NTTドコモのスマートフォン(スマホ)向けサービスで、大規模なメールの不具合が発生した。メールを送信すると、相手には全く別人のメールアドレスから届いたように表示されるトラブルだ。
約10万人が影響を受けたようだが、原因として指摘されたのが、昨今のスマホ契約者の急増だった。
同じIPアドレスが複数のユーザーに付与される
トラブルが発生したのは2011年12月20日午後だ。NTTドコモのスマホ向けサービス「spモード」に不具合が起きた。「spモード」では、ドコモの従来型携帯電話向けサービス「iモード」で使っていたメールアドレスやメールサービスがそのまま利用できる。今回の障害は、自分のスマホからメールを送ると、受け取った相手には実際の送信者とは全く別の第三者のメールアドレスが表示されるというものだ。さらにそのメールに返信すると、そのまま第三者に届いてしまったという。
ドコモはその理由を、「spモードサーバーにおける電話番号とIPアドレスの関連付けに不整合が生じました」と説明した。具体的にどういう意味なのか。
スマホ所有者は1台につき、電話番号とメールアドレスがひとつ固定的に与えられる。通信時には、通信機器の識別番号であるIPアドレスがこれまた1個だけ付与される。ただしスマホの電源を1度切って再起動したり、電波の「圏外」から「圏内」に戻ってきたりすると、それまで使っていたIPアドレスが新しいものに切り変わる。ドコモ広報に取材すると、問題はこのIPアドレスを付与するサーバーの不具合だった。
顛末はこうだ。まず、関西でケーブル切断が起きたためスマホがつながらなくなった。ドコモが販売している、米グーグルの基本ソフト「アンドロイド」搭載端末の場合、途切れた接続を回復しようと自動的にサーバーに接続要求を出す機能が働く。この動作が各所で一斉に起きたため、「spモード」のサーバーに大量の負荷がかかり、予期せぬ事態が起きた。利用者を管理するサーバーから、同じ番号のIPアドレスが複数出されてしまったのだ。
先述のとおり、IPアドレスは「ひとり1個」のはずだ。ところが同じIPアドレスを持つ利用者が2人、存在することになった。IPアドレスはメールアドレスと関連づけられており、例えばAさんがメールを送ったのに、このトラブルで同じIPアドレスを付与されたBさんのメールアドレスと認識され、受信者に届く時にはBさんが送ったものとされてしまったのだ。
「世界にもまれで、過去に例がない」
今回のトラブルについて専門家は、NHKのニュース番組で「世界的にもまれで、過去に例がない」と指摘した。被害を受けた利用者の中には、個人情報の漏えいを心配する声も上がっている。
ドコモは12月21日に記者会見を開き、辻村清行副社長が「事象としては重たいもの」として謝罪した。原因として挙げたのが、スマホ利用者の急増だ。国内のスマホ市場は成長を続けており、ドコモでも「spモード」の契約者数が2011年11月で約609万人に達した。
実は「spモード」は8月にも、通信機器の故障による接続障害が起きている。この時も、障害発生後にスマホからサーバーに向けて一斉かつ大量の接続要求が送られたが、サーバーが負荷に耐えきれず、回復までに数時間を要した。
スマホ人気はいまだ衰えず、メーカーや携帯電話会社も続々と新型モデルを市場に投入している。しかし今回の事故で、サーバーを中心とした通信インフラの能力に疑問符がつけられた。単なる接続障害ではなく、メールアドレスという「個人情報」が漏れたのも深刻だ。ドコモ広報は、今後サーバーの増強を含めた設備能力の見直しを図るというが、今後も予想されるスマホ利用者の増加に間に合うのか、大きな課題を抱えてしまった。