北朝鮮の金正日総書記の死去にともなって、動向が注目されているのが長男の正男氏だ。正男氏は、正恩氏が後継者に決まってからは北朝鮮に戻っていないとみられ、事実上の亡命生活を送っているとされる。正日氏の告別式のために帰国するとの見方もあるが、過去には正男氏は日本メディアに対して政権批判を展開したこともあり、仮に帰国した場合、正男氏の身に危険が及ぶ可能性もある。
90年代までは後継者レースに参加していた
正男氏は、1990年代までは後継者として有力視されていたが、2001年に偽造パスポートで日本に入国しようとして身柄を拘束されたのをきっかけに、後継者レースから脱落。それ以来、たびたび北京やマカオなどで姿が確認されてきたが、09年に正恩氏が後継者に内定してからは、一度も北朝鮮に戻っていない模様で、事実上の亡命生活だ。
その正男氏が、2011年12月28日に平壌で予定されている正日氏の告別式に出席するかどうか注目が集まっている。
11年12月19日に発表された国家葬儀委員会の名簿には、正恩氏をはじめとする232人の幹部が名前を連ねているが、そこに正男氏と次男の正哲(ジョンチョル)氏の名前はない。この2人が政権内では力を持っていないことは明らかだ。
ただ、1994年に金日成主席が死去した時には、正日氏と後継者争いをしていた異母弟の平日(ピョンイル)氏が、大使として赴任していたポーランドから帰国して告別式に参列している。このことから、正男氏も、一遺族として参列する可能性が指摘されている。
また、米政府系の自由アジア放送(RFA)が11年12月20日にポーランドの情報筋の話として伝えたところによると、平日氏はすでにポーランド出発したとみられ、今回も告別式に参加する可能性がある。
ただし、朝鮮日報によると、翌12月21日には、韓国政府当局者が
「金平日氏と金正男氏はいずれも家族としての資格で葬儀に出席する可能性はあるが、今のところ二人が現在の滞在地を出発して平壌に向かったという情報はない」
と語ったといい、はっきりした動向は分からない。
日本メディアに「3代世襲について反対」
加えて、平日氏に比べて、正男氏が帰国するにはハードルが高いとの見方もある。正男氏は、過去に政権批判ともとれる発言を繰り返しているからだ。例えば10年10月9日には、北京市内でテレビ朝日の取材に対して、
「個人的には、3代世襲について反対しています。ですが、しかるべき内部要因があったのではと思います。内部要因があるなら、それに従うべきだと思います」
と、正日氏を批判しているともとれる発言をしている。さらに、
「私は、弟が北韓住民たちのために、本当に住民たちの潤沢な生活のために最善を尽くしてほしいと願っています」
と、韓国でしか使わない「北韓」という言葉を使いながら正恩氏にエールを送っている、このことから、「正男氏のマインドは、すっかり『南寄り』になっている」と受け止める向きもある。
また、11年1月中旬にも、東京新聞に対して
「3代世襲は社会主義理念とは合わないと、私は以前も指摘した。父もそう言って反対していた。なぜ世襲になったかは分からない」
と話している。
正男氏がテレビ朝日のインタビューに応じた時点で、専門家からは
「金正日総書記の存命中に具体的な危害が加えられることはないと思いますが、『金正日後』は、分かりません」(コリア・レポートの辺真一編集長)
といった、正男氏の身の安全を案じる声が出ていた。正日氏亡き今、「安易に帰国したら、もう二度と国外に出られない」といった可能性もある。