新聞大手が有料の「電子版」創刊に踏み切る中、課題として浮上しているのが、無料で記事を掲載してきた既存のニュースサイトとの住み分けだ。日本経済新聞は早々と無料サイトを閉鎖して有料版に一本化したが、関係者によると、朝日新聞も2012年初めに追随する可能性が高いという。有料会員が伸び悩んでいるのが、その原因だ。
日経は2010年3月の電子版創刊と同時に、無料サイト「日経ネット」を閉鎖している。日経ネットは紙媒体に掲載されている記事の約3割しか掲載されていなかったが、月に4000円払って電子版の有料会員になると(紙媒体と併読しない場合)紙媒体に掲載されている全記事を読めるようになった。逆に、無料で登録できる会員は、機能の一部しか使えない。
日経電子版は有料・無料合わせた会員数が120万人突破
これは、同社の
「『良質なコンテンツはタダじゃない』というのが我々の考え方。『ネット上の情報は無料』というこれまでの観念とは違う考え方で取り組んでいきたい」(喜多恒雄社長)
という考え方を反映させたもの。当時、日経ネットの広告収入が伸び悩んでいたこともあって、「無料版の広告収入を捨ててでも、有料版に誘導する」という決断に踏み切った。
その結果、日経電子版は、11年12月19日時点で有料・無料合わせた会員数が120万人を突破し、有料会員数も17万に達している。10年2月の創刊発表会見で、
「早期に50万ID(有料・無料合わせた会員数)を達成し、早めに100万台に乗せたい」
という目標を掲げていたことからすると、ある程度の成功を収めていると言える。
これと対照的なのが11年5月に創刊された有料版の「朝日新聞デジタル」だ。料金体系は日経と同様だが、無料サイトの「アサヒコム」を存続させたのだ。朝日新聞社の広告局が公表している媒体資料によると、11年7月時点でのアサヒコムのページ閲覧数は月間5億6000万ページビューで、ユニークブラウザ数は月間約2200万にのぼる。広告収入額は公表されていないが、年間十数億円にのぼるとみられている。この広告収入を捨てきれなかったことが、無料サイト存続の理由だとされる。
読売と毎日、中日12年春にも電子版創刊
朝日新聞社は11年10月31日、有料版の購読申込者数が5万人を突破したと発表している。だが、最大2か月無料で購読できるキャンペーンを行ったこともあり、その後は有料会員数が伸び悩んでいるのは明らか。無料サイトが有料版の足を引っ張っている可能性もある。
朝日新聞広報部によると、有料会員数は公表されていないが、紙媒体と併読する「ダブルコース」が8割以上だという。「紙媒体の購読をやめて、電子版だけ購読する」というパターンは、あまり多くないようだ。
アサヒコムの記事の中には、リード文だけを掲載して「続きは朝日新聞デジタルでご覧いただけます」というリンクを設置し、有料版に誘導する試みも行われている。この試みが奏功しているかは不明だ。12年早々にも、アサヒコムが廃止されて有料版に一本化されるとの見方も有力だが、朝日新聞社では「経営戦略についてはお答えしていません」と、コメントを避けている。
全国紙では、読売新聞と毎日新聞が、ブロック紙では中日新聞がそれぞれ12年春にも電子版の創刊に踏み切るとみられ、今後、無料で読める記事は大きく減少する可能性もある。