オフィスで、「お菓子の手渡し」が注目を集めている。チョコレートに「手書きメッセージ」を添える「ビズチョコ」という方法だ。社内のコミュニケーションを活発にするために、会社ぐるみで積極的に取り入れるところも出てきた。
採用代行のツナグ・ソリューションズは、週に1度「お菓子の日」を設けている。チョコレートやキャンディ、クッキーやせんべいなどを共有スペースに用意し、スタッフは自由な時間に好きなだけ食べることができる。
メッセージ書き込めるパッケージも登場
取引先からの差し入れや旅行のお土産などがあると、スタッフが集まって会話がはずむ――。こんな光景を見た若手スタッフから、「会社でお菓子を常備してくれたら、適度な息抜きになって仕事もはかどる」という声があがった。
仕事中の飲食は禁止という会社は少なくない。雑談がはずんで仕事に差し支えるのでは、と心配する人もいたが、実際にやってみるそんなことはなく、仕事のオンとオフの切り替えがうまくいくようになった。
2つのフロアに分かれて働くスタッフの交流も盛んになり、「くじ引き」で選ばれた人同士がお菓子を手渡しする取り組みも始まった。いまでは購入費用は会社の福利厚生費から出している。
社員研修のコンサルティングなどを行うJTBモチベーションズでも、お菓子を通じたコミュニケーション方法の研究を進めている。いま試みているのは、小分けになったチョコレートのパッケージに「手書きメッセージ」を添えて手渡しする「ビズチョコ」という方法だ。同社で実施するモチベーション研修でもビズチョコを用いている。
油性のサインペンで「いつもありがとうございます」「今月もおつかれさまでした」「次もヨロシク」などと添えると、相手の人となりも伝わる。手書きスペースをあらかじめ設けた「キットカット オトナの甘さ」(ネスレ)を活用している。
同社研究開発チームの野本明日香さんは、「ビズチョコ」がギスギス職場に与える効果について次のように説明する。
「インターネットの普及で、デジタル情報の伝達が飛躍的に効率化した部分もありますが、対面や肉声、モノを通じたアナログの情報交換が不足がちになりました。コミュニケーションの基盤には人間同士の信頼感や親近感が不可欠で、そういう感情を共有しないコミュニケーションは、受け手に強いストレスを与えるのです」
血糖値を上げて脳を活性化する効果も
ボヤージュグループ(旧ECナビ)でも、今年から「キットカット オトナの甘さ」を使ったビズチョコを導入している。
社員同士で手書きのカードを交換し、カードを多くもらった人を表彰する「サンクスカード制度」を3年前から実施してきたが、休憩時間にチョコレート系のお菓子を食べる人が多いことから、ビズチョコを使った方法に変えた。
発売元のネスレも、「ビズチョコを『身近な人を応援する』『感謝の気持ちを示す』『お疲れ様とねぎらう』といった場面で使ってもらいたい」という。
「甘いものを食べると血糖値が上がり、脳が活性化する」という側面もあるようだ。医学博士の米山公啓氏は『できる人の脳が冴える30の習慣』(中経出版)の中で、甘いお菓子は眠気を覚まし、脳をリラックスさせて思考や発言に弾みをつける効果があると述べている。
各メーカーも、オフィス向けのチョコの充実に余念がない。江崎グリコでは食べる時間に合わせた3種類の「オフィスブレイク」シリーズを開発、仕事中でも手を汚さずに食べられる明治の「きのこの山」「たけのこの里」も新しい味の商品を出している。キットカットも1930年代のイギリスで「働きながら食べやすいお菓子」として開発されたものだ。
前出の野本さんは、
「人間のモチベーションは、仕事の内容や報酬だけでなく、ちょっとした人間関係で大きく変わったりすることもあります。マネジメントに苦労している管理職は、部下一人ひとりで異なる『モチベーションのツボ』を理解し、それを刺激する声のかけ方をすることで、ずいぶん楽になります。お菓子はそのツールとしてとても便利ですよ」
と指摘する。特に今どきの若い人たちにとっては、職場の人間関係が良好であることが、やる気や生産性に大きな影響を与える傾向にあるという。仕事の場でお菓子なんて、と眉をひそめるのはもう古い考えかもしれない。