「調査報道ブロガー」を名乗る米女性のブログに書かれた人物が「名誉を傷つけられた」と提起した訴訟で、米オレゴン州の裁判所は女性を「ジャーナリストではない」と断定、損害賠償を命じる判決を下した。
オレゴン州にはジャーナリストの情報源秘匿を保護する法律があるが、ブロガーであるこの女性には適用されなかった。
ジャーナリストとして教育を受けていない
問題となったのは、米の女性ブロガーが、ある投資グループを糾弾したブログの中身だ。複数の米メディアが2011年12月7日に伝えたところによると、彼女は、この投資グループが手掛ける事業に違法な点があり、共同創業者の人物を名指しで「強盗、泥棒、嘘つき」と極めて強い表現で非難した。類似した複数のブログを立ち上げて、執拗とも言える攻撃を続けている。
女性のプロフィルを見ると、「PRコンサルタント、不動産仲介業者」と並んで「調査報道ブロガー」とある。メディア組織に属する記者ではなく、自ら取材して執筆、掲載媒体も自身のブログだ。投資グループ関連の記事も、「内部の信頼できる筋」への取材をもとにしているという。
標的にされた投資グループは、女性を名誉棄損で提訴。インターネット上で企業名や創業者名を検索すると、この女性の複数のブログが続々と登場するため、信用を傷つけられ事業機会を失った、と主張する。
これに対して女性は、「ジャーナリストとして保護されるべき」と真っ向から対立した。米国内40州では、ジャーナリストの取材源を守るための「シールド法」が施行されている。裁判では、この女性のようなブロガーにまで法律の範囲が及ぶかが注目された。しかし判決は、「ジャーナリストではない」として、原告側の訴えを認めて女性に250万ドル(約1億9250万円)の損害賠償の支払いを命じたのだ。
AP通信によると裁判官は、ジャーナリストと認められない理由として、これまでジャーナリストとしての専門的な教育や訓練を受けておらず、広く認知された報道機関に所属しておらず、特に関係もない点を挙げた。さらに、事実確認や編集といった報道の基準にしたがっていたという証拠も見当たらないなど、複数の指摘をした。一方、女性は「ジャーナリスト」を自任しており、過去5年間で400を超える記事をブログに投稿した実績を掲げて反論している。
「iPhone流出騒動」ではブロガーが家宅捜索
今回の判決に、米メディアでは議論が起きている。オンラインメディアの発達に、現行法がついていけていないとの米法律家の指摘もある。
ジャーナリストとブロガーの境界については2010年4月に起きた「アイフォーン(iPhone)試作機漏えい騒動」が思い出される。当時、発売前だった米アップルの「iPhone 4」について、米ITブログメディア「ギズモード」の記者が「試作機を入手した」としてネット上に写真を公開したのだ。アップルから返却を要請されたものの、ギズモードは拒否。実際に試作機を拾ったのは記者ではなく別の人物で、ギズモードが5000ドルを支払って入手したことも分かった。
その後、カリフォルニア州の警察は、アップルの被害届を受けてこの記者の自宅を捜索、パソコンやサーバーを押収した。ギズモードを運営する「ゴーカーメディア」は、当局による捜索がカリフォルニア州のシールド法に反すると批判。ゴーカー創業者のニック・デントンはツイッターで、「ブロガーはジャーナリストと認められるだろうか、それを知るよい機会だ」と投げかけた。
騒動発生から1年以上たった2011年8月、記者に対する不起訴処分が最終的に決まった。だが「ジャーナリストとしての法的な保護」についてまでは踏み込まなかったようだ。