神奈川県の湘南地区を中心に運行する江ノ電バス(神奈川県藤沢市)の運転手が、運転を中断してバス停近くのファミリーレストランに駆け込んでいた。よくあることではないが、これが原因で大きな遅れが出たわけではない。だが、全国紙2紙が報じ、ネット上では「新聞沙汰にする必要があるのか」という声もあがっている。
トラブルが起こったのは、辻堂団地発藤沢駅北口行きのバス。2011年12月11日17時20分頃、終点から数えて4つめの「鵠沼小学校前」(藤沢市本鵠沼)のバス停で、運転手(36)が「申し訳ないのですが、トイレに行かせてください」とアナウンス。
乗客から特に苦情は出なかった
エンジンを切り、ハザードランプを付け、タイヤに車止めをした上で、バス停のすぐ前にあるファミリーレストラン「ガスト鵠沼店」に駆け込んだ。江ノ電によると、戻ってくるまでにかかった時間は1分30秒程度。約20人の乗客がいたが、特に苦情は出なかったという。
バスは辻堂団地と藤沢市北口を往復していたが、JR東海道本線の辻堂駅前に11月にオープンしたばかりの大型商業施設「テラスモール湘南」の影響で周辺道路は大渋滞、定刻から約30分遅れて運行していた。このため、折り返し地点でトイレに行くタイミングを逃してしまった模様だ。業務開始時の点呼の際には、特に体調に異常はなかったという。
江ノ電では、運行上大きな問題はなかったとの立場だが、一連の経緯を朝日新聞が2011年12月13日、神奈川県版で「乗客残し『トイレ行かせて』 江ノ電バス運転手、渋滞で我慢できず」との見出しで記事化。産経新聞も、これを追いかける形でウェブサイトと12月14日付「サンケイスポーツ」に記事を掲載した。両記事では、乗客を車内に残したままだった点を強調しているようにも見えるが、ネット上では「これのどこがニュースなのか」といった疑問の声もある。
過去に記事化されたのはオーバーランなど「実害」がでている
なお、過去にも似たケースはあるが、いずれもある意味で「実害」が出ていて、ここが今回とは違う。
11年8月には、札幌発新千歳空港行きの普通列車の運転士が、トイレに行きたくなったことから注意力が散漫になり、ブレーキをかけるのが遅れた。このため、島松駅(北海道恵庭市)の停車駅を160メートル過ぎて停車。列車をバックさせるなどしたため、5分の遅れが出た。
05年6月には、横浜市営地下鉄の運転手が同様の理由で仲町台駅(都筑区)を約100メートルオーバーランし50秒程度の遅れが出ている。
93年7月のケースはかなり悪質だ。東武鉄道の太田発浅草行き準急電車で運転士の気分が悪くなり、定められた速度で走ることができずに足利市駅(栃木県足利市)に8分遅れで到着した。運転手はトイレに駆け込み20分後に戻ったが、息が酒臭く酒気帯びだったため、駅員が運転士を交代させた、43分遅れで電車は出発した。当時の新聞では、この酒気帯びの運転士は実名で報道されている。