優勝チームに最大貢献し、2冠3タイトルのエースがMVPの記者投票で大敗という信じられない事態が起きた。中日の吉見一起投手がその悲運の人。選ばれたのは同僚の中継ぎだった。不思議な投票との声があがっている。
今シーズンの最優秀選手(MVP)が発表されたのは12月1日のこと。パ・リーグが日本シリーズを制したソフトバンクの内川聖一外野手、セ・リーグはリーグ優勝した中日の中継ぎ浅尾拓也投手。驚いたのはセで、大本命のエース吉見が選考されなかったことだった。
吉見の成績は過去20年でも特筆モノだが…
投票数と得点は次の通り。カッコ数字は順位で1位5点、2位3点、3位1点。
▽浅尾 (1)170 (2) 55 (3)4=1,019
▽吉見 (1) 70 (2)156 (3)7= 825
MVP投票はプロ野球担当記者によって行われるもので、「記者投票による表彰選手」といわれる。新人王やベストナインなども記者投票で決まる。MVPの選考趣旨は、ペナントレース優勝の貢献が第一の条件とするもの。ただし、優勝に関係なく図抜けた成績を残した選手が選ばれることもある。
両投手の成績を振り返ってみると、意外な結果だったことがよく分かる。
▽浅尾 79試合、投球回数 87回1/3、7勝2敗10セーブ、ホールドポイント52、防御率0.42。
▽吉見 26試合、投球回数190回2/3、18勝3敗、防御率1.65。
浅尾は最多ホールドポイントのタイトルを獲得。対する吉見は最多勝利、最優秀勝率、最優秀防御率の3タイトルを手にした。最多三振を取れば勝利、防御率と併せ「投手の三冠王」になるところだった。
さらに細かく見ていくと、救援投手としての浅尾はセの8位。1位は41セーブを挙げた阪神の藤川球児投手で、2位には中日の岩瀬仁紀がつけた。浅尾はときにはクローザーとしても投げたが、高く評価されたのはやはり中継ぎとしての役目。一方吉見は与四死球27(1試合1個平均)被本塁打8、暴投0という抜群のコントロールを見せた。
さらに不思議なのは、吉見はセのベストナインに選ばれ、同時にセの最優秀投手になっているのだ。MVPだけは「お前じゃないよ」と判定されたことになる。
吉見の成績がどれほど素晴らしかったか、過去20年(1992年~2011年)のMVP投手の成績を見れば一目瞭然である。セはその間に5投手が獲得。吉見をしのいだのは勝利数で20勝の阪神・井川慶(2003年)と19勝の中日・野口茂樹(1999年)。94年の巨人・桑田真澄は14勝での受賞だった。防御率1点台はだれもいない。パを見ても優勝チームから選ばれた投手はすべて勝利、防御率で吉見に及ばない。日本ハムのダルビッシュ有は二度獲得しているが、いずれも15勝である。