東京電力は2011年11月15日、福島第1原発事故の損害賠償支払いのため年末までに必要な資金として、国から5587億円の支援を受けた。枝野幸男経済産業相が5日認可した「緊急特別事業計画」に盛り込まれた9000億円規模の賠償支援の一環だ。
だが、今回の計画は「緊急、足元の問題に対応する ため」(原子力損害賠償支援機構の下河辺和彦・運営委員長)のもので、賠償負担による東電の債務超過を避けるための「急場しのぎ」。今後の廃炉、 除染費用など課題の多くは2012年春策定予定の「総合特別事業計画」に先送りされた。抜本的な経営改革の道筋は不透明だ。
廃炉や除染費用の規模は明確になっていない
緊急特別事業計画では、当面確実な賠償額を1兆109億円と計算。ここから原子力損害賠償法に基づき国が支払う補償金1200億円を差し引いた 約9000億円を賠償支援額とした。リストラでは、今年度中に資材・燃料調達や人件費削減などで2400億円、今後10年間でグループ従業員 7400人削減の効果などで約2兆5000億円のコストを減らすことを明記。
保有資産も、今年度中に株式を中心に3500億円以上を売却することとし、政府の経営・財務調査委員会が要請した「3年以内の約7000億円の資産売却」を前倒しで実施。退職者向けの年金削減に取り組み、80歳以上に支払う「終身年金」の給付額を3割カットすることなども盛り込んだ。
ただ、廃炉や除染費用の規模は明確になっておらず、政府の第三者委員会によると、廃炉費用だけで少なく見積もっても1兆1500億円。東電の西沢俊夫社長は「政府による資本注入を避け、民間企業として存続したい」と言うが、枝野経産相は「経営形態の選択肢も、あらゆる可能性を排除せずに (検討を)進めてほしい」と、東電の逃げ道をふさぐように釘をさす。
東電が民間企業として生きていくには収益を増やす必要があるが、そのためには「電気料金の値上げなしには無理」(東電関係者)。だが、機構は東電が一層の資産売却などで経営合理化を進めなければ値上げには国民の理解は得られないと考えており、簡単ではない。
東電内に 賠償支援機構の職員が常駐
特に、今回の「緊急特別事業計画」で注目されるのは、経営改革委員会を東電内に設置することが盛り込まれた点だ。東電と機構のトップが参加し、 リストラの進捗状況や経営状況について監視するのが役割だ。つまり、東電の経営改革に政府サイドの意向を反映させるための「橋頭堡」として、東電内に 賠償支援機構の職員が常駐することになった。
来春の計画策定に向けた議論で、政府が東電に資本を注入して国の管理下に置く案や、安定的に電力事業を営む会社と、賠償を担う会社に東電を分離する案などを俎上(そじょう)に載せるのが政府サイドの狙いとの見方が有力だ。18日の初会合では経営合理化の徹底とともに、東電の将来のあり方も 協議の対象とすることを確認、賠償支援機構の嶋田隆・運営委員会事務局長は「(資本注入が)選択肢の中には可能性として入る」と明言している。
そして、東電の「解体」をテコに、発送電分離など電力改革に進む――電力業界では政府がそんなシナリオを描いているとの懸念が広がっている。