病気療養を理由に退任した東京電力福島第1原発の吉田昌郎前所長の病状をめぐり、さまざまな憶測が飛び交っている。東電は、専門家から「放射線被ばくとの因果関係は考えにくい」との報告を受けたとしているが、病名は明らかにならないままだ。写真週刊誌が「嘔吐説」を唱えているほか、ネット上では根拠不明の「吐血」説も拡散している。
吉田氏は2011年11月24日から入院しているが、東電は個人情報保護や本人の意向を理由に、病名や被ばく線量を公表していない。このことから、吉田氏の被ばくと病気の関連を疑う声は絶えない。
「吉田所長大量吐血 広がる被曝への不安」
例えば、首都圏で12月2日に発売された「フライデー」12月16日号では、「被曝は関係あるか」と題した2ページの記事を掲載し、第1原発関係者による、
「嘔吐が続くなど、内臓系の疾患が疑われているような症状があったと聞いています」
「近く手術が必要なほど悪いと聞いています」
という伝聞情報を伝えている。
ネット上では、さらに過激な情報も飛び交っている。原発情報をやり取りする2ちゃんねるスレッドで、11月29日21時58分に、
「吉田所長大量吐血 広がる被曝への不安」
と題した、新聞記事の体裁をまねた書き込みがあった。書き込みでは、入院先だとされる大学病院が発表した内容として、
「病室で大量の吐血した」(原文ママ)
「現在、集中治療室での治療にあたっている」
とされているほか、ご丁寧にも院長名の
「病名は本人の希望で非公表とし、原発作業での被曝の因果関係はないと話した」 というコメントが付いている。
だが(1)入院先は公表されていないため、病院が発表を行うはずがない(2)院長の年齢が間違っている、という2点から、2ちゃんねる上ですら「デマ」だとみなす声が大半だ。ところが、22時5分には、あるツイッター利用者が2ちゃんねるの書き込みの内容をツイートしたため、根拠なき情報が一人歩きを続けている。
治療の内容についても公表を拒む
なお、吉田氏の病状をめぐっては、東電の松本純一原子力・立地本部長代理が12月2日朝の会見で、
「放射線の専門家の先生から、3月11日以降の原子力発電所の事故収束に従事した上での被ばく線量と、今回の病気の因果関係は考えにくいという見解をいただいた」
との見解を発表している。具体的には、放射線医学総合研究所(千葉市)の明石真言(あかし・まこと)理事が、吉田氏の病名、10年度の健康診断のデータ、過去分と3月11日以降の被ばく線量の提供を東電から受け、診断したという。ただし、明石氏が吉田氏に直接面会して診察した訳ではない。松本氏は、治療や入院の期間について、
「今の時点で何ヶ月かかるかは分かっていない」
と説明。治療の内容についても公表を拒んでいるため、東電の発表内容を客観的に検証できない状態が続き、今後も同様の憶測が流れる可能性もある。