「白血病患者急増」という新聞記事形式の書き込みがネット上で出回り、日本医師会が発表を否定する事態になっている。こうした「デマ」が広がる背景には、政府の原発事故対応などへの不信感があるようだ。
原発事故を巡って、デマが出回ることは度々あった。しかし、日本医師会によると、今回は掲示板、ツイッター、ブログとかなり広く拡散した。
日本医師会は、7倍増の調査結果発表を否定
それは、新聞記事形式だったこともあるらしい。
内容は、「国公立医師会病院」の統計で、2011年4~10月に白血病と診断された患者数が前年の約7倍にも膨れあがったことが11月21日に判明したというものだ。そして、患者の6割以上が急性白血病で、統計開始の1978年以来、例のない高い比率だとした。また、患者の8割が東北、関東在住で、福島、茨城、栃木、東京の順で多いとした。このことについて、原発事故との因果関係は不明だが、それが分かり次第、日本医師会の原中勝征会長が発表するという具合になっている。
日本医師会では、サイト上の原中会長名のお知らせで29日、「このような発表を行った事実はありません」と関わりを否定した。そもそも、医師会病院は国公立ではなく、統計データも確認できず信憑性もないというのだ。
医師会の広報情報課によると、調査した結果、2ちゃんねるの書き込みが発信源とみられるデマだと分かった。
2ちゃんでは、「【原発】原発情報1713【放射能】」というスレッド内で22日22時3分、「白血病患者急増 医学界で高まる不安」という見出しで書き込みがあった。これに対し、「ソースどこ?」と質問が出て、12分後に同じ書き込み主が、ある大手新聞の記事をコピーしたものの消されたと説明していた。
スレでは、「いよいよ来たか」「関東は、オワッタ」などと真に受けたような書き込みはあった。しかし一方で、ネット上を検索しても記事の痕跡がなかったとして、「デマだろ」「ここの住人は釣られないゾ」との指摘も出ていた。
後手後手に回った政府対応に不信感
ところが、その後、ブログやツイッターで、ソースの問題点には触れず、記事形式の書き込みを紹介するケースが相次いだ。
「子供を被曝から守ろう!」と訴えるコミュニティ掲示板でも2011年11月23日、この書き込みを紹介したほか、また別のブログでも24日、統計データが見当たらないものの「火の無いところに煙は立たず」と書き込みに触れた。ツイッターでも、書き込みをコピペして、つぶやく人がいた。
どうやら、ネット上で紹介しているのは、放射能汚染を深刻に考える人たちによるケースが多いようだ。前述の掲示板では29日、安易な紹介を謝罪したが、「今後、このデマが本当の事になってしまわない事を願うばかりです」と明かしていた。
今回の書き込みは、専門家から見た場合、考えにくい内容だったようだ。
神戸市内の小児科医というブロガーは、白血病患者がいきなり前年の7倍に増えれば、専門医不足の病院はパンクすると指摘した。また、直近の4~10月の統計データを調べるには、ありえないほど早いペースの作業が必要になるとしている。
とはいえ、ネット上では、白血病急増の情報をつかんだ人が記事形式でリークした可能性があるなどといった意見も依然くすぶっている。それは、政府が後になってメルトダウンを認めるなど、後手後手の対応に回ってきたことに対する不信感からのようだ。書き込みを見ても、「実際どうなんだよ ちゃんと調査しろ!!!」といった声が相次いでいる。
しかし、日本医師会では、白血病の統計調査はしていないという。厚労省の保健統計室でも、9、10月に白血病の患者調査をしたものの、発表は12年12月ごろになる予定だとしている。