福島第1原発の吉田昌郎所長(56)が病気療養のため入院した。東京電力はプライバシーを理由に病名は公表しておらず、「被ばくとの因果関係はないとみられる」と説明している。
インターネット上では、プライバシーを理由に病名を非公表とすることに疑問の声が上がる一方、「(非公表で)仕方ない」とする意見も並んでいる。吉田所長の事故後の奮闘ぶりは広く知られているだけに、ネット上では、早期回復を祈る声も多く寄せられている。
「隠していると憶測が膨らむ」
東京電力の2011年11月28日の発表によると、吉田所長は11月中旬に受けた健康診断で病気が見つかり、24日に入院した。12月1日付で所長職を退任する。吉田所長は3月の事故当時から現場で指揮にあたってきた。
東電は、吉田所長の病名も被ばく線量も「公表できない」としている。吉田所長は11月12日、報道陣に「(放射線量は)それなりに浴びている」と話していた。
東京電力広報部に聞いてみると、病名などの非公表について、「会社として判断した」。非公表は吉田所長の希望なのか、との質問に対しては、「(本人意思は)不明だが、本人は『治療に専念したい』と話している」と回答した。
ネット上には、吉田所長入院について、「ご苦労さまでした」「元気になってもらいたい」「ご回復を祈る」などの激励の声も並んでいる。
一方、「病名非公表」については、例えば経済評論家の山崎元氏は、ツイッター(11月29日)で、「個人情報」を理由にして病名・病状などを東電が伏せるのは「不適切だ」と断じた。
山崎氏は、「公開した方が納得性が高い」「隠していると憶測が膨らむ」とも指摘し、「本人の同意の下に公開するのがベスト」と書いている。
確かに、「憶測」は膨らんでおり、定期検診から入院までの期間が短いことなどから具体的な病名を挙げて、被ばくとの因果関係を心配する声も少なからず出回っている。「医療関係者ブログ」の中にも、こうした「憶測」にはある程度根拠があるとする内容のものもある。
枝野経産相「(被ばくの)影響があれば公表する」
ネット上で引き合いに出されているのは、8月30日に東電が発表した内容だ。福島第1原発の復旧作業にあたっていた40代の男性作業員が、急性白血病で死亡したもので、「医師の診断の結果、作業と死亡の因果関係はない」と説明した。
この40代男性の件でも、被ばくとの因果関係を疑う声が当時から出ており、今回の吉田所長の入院と一部イメージを重ねようとする人もいるようだ。
一方、2ちゃんねるなどには、厚生労働省による白血病の労災認定基準に「1年超の潜伏期間」などを定めていることから、40代男性の件も、原発事故による被ばく問題と関係付けるべきではない、と諫める声もある。
ジャーナリズム論が専門のある大学教授は、「今回の病名非公開は、多くの人が疑問を持って当然だ」とし、「東電が発表すべきというよりも、ジャーナリストが取材をして報じるべきだろう」と話した。
また、プライバシー問題に詳しいある弁護士によると、病名を公表・報道すべきかどうかは「一概には言えない」という。最高裁判例では、「公表すべき利益とプライバシーとを両天秤にかける」考えが示されているからだ。
「興味半分」の病名報道ならすべきではないだろうし、仮に被ばくと関連があったり、東電による社員の健康管理に問題があったりするようなら「公表すべき利益あり」との見方ができそうだ。
枝野幸男経済産業相は11月29日の会見で、吉田所長入院について、被ばくとの関連は「可能性はないだろうと思われる」と述べた上で、「確認させており、影響があれば公表する」と明言した。