米アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏が亡くなる間際まで構想を練っていたと言われる新型テレビに、シャープの液晶パネルが組み込まれるとの話が浮上した。
米アナリストの報告書によると、シャープの堺工場(大阪府)でつくられる製品を採用し、2012年2月には「iTV」として発売されるという。
iPhoneやiPadのパネル生産も受注か
調査リポートを書いたのは、米投資銀行「ジェフリーズ」のアナリスト、ピーター・ミセク氏だ。米ブルームバーグなどによると、アップルは「アイフォーン(iPhone)」や「iPad」に使われている液晶パネルの生産をシャープに移管するとともに、2012年発売予定の新型テレビのディスプレーもシャープ製を採用するという。ミセク氏は実際に訪日し、製造業のトップからの証言をもとにリポートを書いたようだ。
アップルによる新型テレビの計画は、スティーブ・ジョブズ氏の評伝にも登場する。ジョブズ氏自ら「とっても使いやすいテレビをつくりたい」と望み、その方策も「ようやくつかんだ」と話していた。それ以上の具体的な記述はなかったが、ミセク氏のリポートには「2012年2月に『iTV』が登場する」とある。液晶画面の生産のため、シャープの堺工場には専用ラインを設置。さらに「iPhone」や「iPad」の液晶パネル生産もシャープに発注し、総額5~10億ドル(約375億~470億円)の大型契約になる見込みだ。
事実関係についてシャープ広報に取材すると、「個別の取引については回答を控えたい」と否定も肯定もしなかった。公表されていないが、iPhoneやiPadの液晶画面の供給はこれまで、韓国LGディスプレーをはじめ複数のメーカーの名前が上がっている。これが仮にシャープに集約され、かつ新製品のテレビも受注となれば、シャープの液晶事業に弾みがつくのは明らかだ。
シャープは2011年6月3日の経営方針説明会で、亀山工場(三重県)における中小型のモバイル液晶事業の強化と、堺工場で生産される60型以上の大型パネル事業の拡大を柱とすることを発表した。iPhoneやiPad、さらに「iTV」の受注は、この経営方針の遂行にピタリと当てはまる。
サムスン頼みのリスクを下げる思惑
アップル側にも事情があるようだ。これまで、iPhoneやiPadに搭載されている半導体などの部品は、韓国サムスン電子から調達してきた。ところが両社は現在、互いのスマートフォンやタブレット型端末をめぐって「特許を侵害した」と訴訟合戦を繰り広げている。ドイツやオーストラリアでは、アップルの訴えを裁判所が認めて、サムスンに「ギャラクシー・タブ」の販売停止を命じた。一方日本をはじめ数か国で、サムスンが「iPhone 4S」の販売差し止めを求めて仮処分申請をしている。10月には、事態の打開に向けて両社のトップ会談が開かれた模様だが、先行きは不透明だ。
サムスンは、液晶パネルの世界的な有力メーカーでもある。調査会社ディスプレイサーチによると、2010年の中小型液晶パネルの世界シェアは、シャープに次ぐ世界2位。アップルに納入しているかは不明だが、ミセク氏のリポートによるとiPhoneなどに使われているフラッシュメモリーもサムスンから東芝の製品にシフトしつつあり、シャープとの連携強化で液晶も含めた「サムスン頼み」のリスクを下げようとの思惑があるとみられる。
シャープが2011年10月27日に発表した第2四半期(7~9月)決算によると、液晶事業では、米国を中心に60型以上の大型テレビの販売が急拡大、またパネルも大型サイズへの移行が進んで、売上高は前期比増となった。大型パネルを生産する堺工場の稼働率は、10~12月も90%超と高い数字をキープする見込みを報じたメディアもある。シャープ広報部に聞くと「当社が発表した内容ではない」と明言を避けたが、高稼働率を支えているのは「iTV」の生産、という見方ができなくもない。