米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏が、亡くなる寸前まで構想していたのはテレビだった――。評伝では、今後実現したいプロジェクトのひとつに、シンプルでエレガントなテレビの構想をもっていた点に触れられている。
「アイフォーン(iPhone)」や「iPad」と次々にヒット商品を生み出したジョブズ氏だけに、どこまで斬新なテレビになるのか、期待が高まっている。
「とっても使いやすいテレビを作りたいと思ってるんだ」
「とっても使いやすいテレビを作りたいと思ってるんだ」
評伝「スティーブ・ジョブズ」(講談社)の第2巻、物語の結末に近いページにこの言葉は登場する。2011年1月から病気療養中のジョブズ氏が、これまでコンピューターや音楽プレーヤー、携帯電話で変革を起こしてきたように、テレビを「想像したこともないほどシンプルなユーザインターフェースにする」と意気込んでいたのだという。
ジョブズ氏はさらに「どうすればいいか、ようやくつかんだんだ」と漏らしていた。それ以上の詳しい内容は書かれていないが、他のアップル製品と無線で同期できるようなテレビ、とそのアイデアの一端を明かしている。
アップルは既に「アップルテレビ」と呼ばれる製品を販売しているが、これはテレビ受像機ではない。テレビに接続して、インターネット経由で映画や動画といったコンテンツを視聴するための、セットトップボックスのような装置だ。2010年にリニューアル発売されたが、「iPhone」や「iPad」に比べると地味な存在という印象は拭えない。
一方で、テレビ受像機自体にネット機能を持たせた「スマートテレビ」は、アップル以外のメーカーが既に市場に送り出している。代表的なのが、いわゆる「グーグルテレビ」だ。2010年10月にソニーが米国で発売。画面上に表示されるグーグルの検索窓にキーワードを入力して見たい番組を探したり、複数のアプリケーションからひとつを選んで、ツイッターやユーチューブといったネットのサービスを楽しんだりできる。
しかし発売後間もなく、米3大テレビネットワークがグーグルテレビへの協力を拒み、各局がウェブサイト上に載せているテレビ番組をグーグルテレビ上で視聴できない処置を施した。アプリ不足も解消されておらず、発売から1年たっても泣かず飛ばずの状況だ。
「新型テレビ」にはiPhone 4Sに搭載された機能搭載?
ITジャーナリストの佐々木俊尚氏は、2011年11月16日のインターネット報道協会(INAJ)設立3周年記念講演会の中で、ジョブズ氏評伝に書かれているテレビ開発の話に触れた。2012年にアップルが純正テレビを発売する可能性を指摘、「iPad」のようにアプリを使って操作するタイプになるだろうと話した。
テレビ自体がこのように姿を変えれば、「テレビのビジネスを本質的に変える」と佐々木氏は言う。現在テレビ局は、番組とコマーシャル(CM)をワンセットにして「一方的」に流しており、その番組の視聴者は基本的に誰もが同じCMを見ている。しかしアプリ化されることで、番組とCMが分離可能になるという。例えばテレビ局側で、アプリ経由で番組を視聴する人の年齢や性別といった属性や、過去にどんな番組を見ていたかという行動履歴を把握しておいて、視聴者ごとにターゲティングしたCMを流すという手段も考えられる。
現段階では、ジョブズ氏の描いていた「未来型テレビ」がどのようなものかは分からない。憶測が飛び交うなか、米ブルームバーグは2011年10月25日付の記事で、関係者3人の取材をもとにその姿に迫っている。発売は2012年後半から2013年にかけてと予測。「iPhone 4S」に搭載された音声ガイドシステム「Siri」や、アプリやデーターを保存して「iPhone」や「iPad」など異なるアップル機器同士で共有できる「iCloud」が取り入れられると説明した。「Siri」が利用できれば、リモコンを操作せず声で番組検索が可能になり、また「iCloud」があれば映画や音楽といったコンテンツを、ハードディスクのような装置なしに保存できる利便性を、記事では示している。