野田佳彦首相が、TPP(環太平洋連携協定)をめぐり、米政府から「2枚舌疑惑」を突きつけられ、「踏み絵」を迫られた。「例外品目」なく交渉テーブルに載せる気があるのか、あいまいな態度は許さないと言わんばかりの対応だ。
アーネスト米大統領副報道官は、「野田首相発言」を巡る日本側からの反論をばっさりと切り捨てた。2011年11月15日(日本時間、以下同)の会見で、米側の先の発表は正確で、修正する考えがないと改めて表明した。
野田首相、米側へ訂正求めず
日本側が反論していたのは、米側が発表したTPPに関する「野田首相発言」の中身が事実と違う、というものだ。
米側は13日の日米首脳会談について、「すべての品目とサービス分野を貿易自由化の交渉テーブルにのせるとの野田首相の発言をオバマ大統領は歓迎した」とする発表文を出していた。
この発表を受け、日本側は大慌てとなった。野田首相はこれまで、日本国内のTPP慎重・反対派に対し、例外品目を残す可能性を示唆しつつ話を進めてきたからだ。
早速、日本側は「そのような発言をした事実はない」と米側に反論。外務省はその後、日本メディアに「発言はなかったと米側も認めた」と説明していた。
野田首相も15日の参院予算委員会で、「一言も言っていない」と米政府発表が間違いだと強調。「米国も(間違いを)認めた」として、その認識が共有できれば良いので、訂正までは求めない考えも示した。
何とも分かりにくい対応だ。結局、野田首相は、会談でオバマ大統領に何と言ったのか。
外務省が行っている説明によると、野田首相は、2010年11月に閣議決定した「包括的経済連携に関する基本方針」に触れ、「基本方針に基付いて高いレベルでの経済連携を進める」と述べたのだという。
基本方針には「センシティブ(重要)品目について配慮を行いつつ、すべての品目を自由化交渉対象とし、(略)」と書いている。
確かに米副報道官も会見で、米側発表文について「個別協議に加え、首相らが公的に表明している内容に基付いている」と認めている。
「すべて」を交渉テーブルに載せるのか
不明な部分もあるが日米の言い分を推し量ると、次のようになるだろうか。
――日本側。野田首相は「すべての品目とサービス分野を貿易自由化の交渉テーブルにのせる」と、会談の場で明言したわけではない。だから「(首相は)言っていない」。
米側。それに基付いて進めると野田首相が言った基本方針には、「すべての品目を自由化交渉対象とする」と明記している。ということは、そう言ったに等しい。よって「米の発表は正確だ」。――
これでは野田首相は、米側には「すべて交渉対象」をにおわし、逆に国内的には「例外品目への配慮」を強調する「2枚舌だ」との批判を受けても不思議ではなさそうだ。
こうしたあいまいな態度を見抜いた米側が、意図的に「例外品目」に焦点を合わせた「首相発言」を発表し、「踏み絵」を突きつけてきたという見方もできそうだ。
TPPをめぐる野田首相の態度に対しては、「2枚舌」批判がすでに高まりつつあった。TPP協議入りが「参加に向けて」のものかどうかを巡ってだ。自民党の石原伸晃幹事長が13日の自民会合で「2枚舌」を指摘したほか、14日の自民党外交部会でも声が上がっていた。
今回の「日米の言い分食い違い」を受け、今後「2枚舌」批判が一層高まれば、TPP問題で野田首相が窮地に追い込まれる展開も予想される。