環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉参加をめぐる議論が大詰めを迎える中、経済同友会主催のシンポジウムが4日、東京都内で開かれ、賛否両派が議論を戦わせた。
同友会の会員である企業経営者だけでなく、マスコミ関係者も多く詰めかけたが、2時間にわたる討論でも賛成、反対両派の議論は決着がつかず、この問題の奥深さを改めて印象づけた。
全農OB「大規模経営は無理」
ゲストのパネリストとして登壇したのは、元全国農業協同組合連合会(全農)代表理事専務の加藤一郎氏▽全国稲作経営者会議会長で新潟ゆうき代表取締役の佐藤正志氏▽民主党衆院議員の首藤信彦氏。経済同友会からは農業改革委員会副委員長(昭和女子大学学長)の坂東真理子氏▽経済連携委員会副委員長(アメリカンファミリー生命保険日本代表)のチャールズ・D・レイク氏▽経済連携委員会副委員長(銀座テーラーグループ社長)の鰐淵美恵子氏。司会は同友会副代表幹事の藤森義明氏だった。
このうち、TPP参加に反対したのは、加藤氏と首藤氏で、稲作農家代表として登壇した佐藤氏はTPPに賛成の立場で、交渉参加を主張した。同友会の3人のパネリストはいずれも賛成だった。
全農幹部として米国に滞在した経験もある加藤氏は冒頭、「TPPには反対だが、日中韓FTA(自由貿易協定)は進めるべきだ」と、経済連携や貿易自由化の必要性を認めながらも、TPPのデメリットを説いた。
加藤氏は反対理由として「TPPは協定参加国(米国など9カ国)に日本と連携できる国が少ないからだ」と主張。「いずれも一次産品輸出国で、米国と豪州以外は低賃金を武器にしている。関税撤廃では農産物の輸入が増えるだけ。地域経済が崩壊してもよいのか」と、全農OBらしい主張だった。経団連などが主張する大規模化による競争力強化についても「生産性の悪い所で大規模化は無理だ」と反論した。
同友会委員「日本の農業を強くするチャンス」
これに対して、農家代表の佐藤氏は「淘汰される可能性もあるが、努力する中で見えてくるものもあるのではないか。農業は多様で一律ではない。戸別所得補償のような一律は問題で、条件に応じたものが必要だ」と現実論を展開。「今の日本経済を支えているのは農業ではない。TPP参加はやむなしではないか。WTO(世界貿易機関)の農業交渉では様々な失敗があった。それを繰り返してほしくない」と主張した。
民主党の首藤氏は加藤氏に同調する形で、「私は断固反対だ。TPPにはインドネシア、タイ、台湾、中国などアジアの主要国が入っていない。インドネシアとタイはTPPに否定的。中国は敵意をもっている」などと主張した。
経済同友会からは、坂東真理子氏が「どうしたら日本の農業を強くできるのか。農業をしたい人を広く集めることが第一。韓国は農業の構造改革をしようとしている。TPPは日本の農業を強くするチャンスで、活用すべきだ」などと応じた。
レイク氏は①医療保険制度②外国人労働者の流入③輸入食品の安全性――などが米国主導で見直され、日本の国益が損なわれると指摘されている問題点について「反対派が繰り返す神話だ」と批判。「TPPは新たな黒船ではない。総論賛成、各論反対では失敗する」と主張。鰐淵氏は「国内に問題があるからこそ、交渉のテーブルに着いて、乗り越えるべきだ」と述べた。