中国の芸術家で、北京五輪では「鳥の巣」の愛称で注目を集めたメーン会場をデザインした艾未未氏が、中国当局から約1.8億円に上る追徴課税を受けた。
艾氏はこれまで、中国政府に対してたびたび批判的な発言をしている。巨額の支払いを要求された艾氏に、中国のネットユーザーが次々に支援を申し出た。振り込みやオンライン送金で「貸し付け」をしているという。
SNSに税務局からの文書を公開
芸術家の一方で「人権活動家」の顔をもつ艾氏は、2011年4月に突如、当局に拘束された。脱税容疑とされたが、本人が複数のメディアに、勾留中に人権運動へのかかわりを尋問されたと明かした。
81日間に及ぶ勾留の末、6月に釈放されたが、11月になって当局側に追い打ちをかけられた。米グーグルのSNS「グーグルプラス」を利用している艾氏は11月1日、北京税務局から送られてきた通知書をそのまま画像ファイル化してネットに公開した。翌2日には、「北京税務局から、私が関与する会社に対して過去10年分の税金と、納税の遅延に対する罰金として、合計1522万元(約1億8700万円)を15日以内に納めるようにとの文書が届いた」と改めて報告するとともに、その詳細を説明した。課税項目は多岐にわたるが、金額の根拠は明示されていないようだ。
艾氏はツイッターでも、追徴課税について投稿していた。11月1日に「課税通知が届いた、1500万(元)」とつぶやいた後、翌日には公権力乱用の恐怖について、秘密裏の投獄や失踪、報復行為とともに「課税」を並べて、暗に当局に当てつけた。さらに自身の支持者に向けて「権力の崩壊は避けられないのだよ、ハハハ」と返信するなど、当局への対決姿勢を見せた。
一方でAFP通信の取材に、「15日以内に支払わなければ投獄もありうる」「異議申し立てする場合も、いったんは課徴金を収めなければならない」と厳しい現状について答えている。1日1200万円の支払いは並大抵ではないだろう。
艾氏の窮状を知った中国のネットユーザーは、こぞって「募金キャンペーン」を始めた。ただし本人が、単に寄付してもらうのを潔しとせず、「借金」という形でユーザーたちの好意を受けることに決めた。11月4日、艾氏は「グーグルプラス」に、支援者に対して「貸付金」の振り込みに必要な銀行口座番号やオンライン送金の連絡先などを記載し、「たとえわずかな金額だとしても、電話番号とメールアドレスの記載をお忘れなく」と注意を促した。「必ず返金する」という意思表示だ。
ネットで反政府リーダーの具体的支援「画期的」
艾氏は2008年の四川大地震で、学校で多くの子どもが犠牲になった責任を調べるための独自調査を実施し、人権活動家としての実績を積んでいる。もともと芸術家として知名度が高く、ツイッターやグーグルプラスをはじめSNSやブログを駆使してネット上で発言を続けている。中国のネット事情に詳しく、12月に「中国・電脳大国の嘘」を刊行予定のノンフィクションライター、安田峰俊氏によると、中国で「検閲を突破してツイッターを使えるほど」ネットを使いこなしているリベラルな層にとっては「アイドル的な存在」だという。
中国のネットユーザーがSNSを通じて政府を批判する傾向は、最近よく見られる。2011年7月、浙江省温州市で起きた高速鉄道の死傷事故では、マイクロブログ「新浪微博」で当局の事故対応を厳しく非難する書き込みが続出した。
また2010年にノーベル平和賞を受賞しながら現在服役中の民主活動家、劉暁波氏について、支持者たちはツイッター上で自分たちのアイコンに黄色いリボンの画像を付けることで、当局への抗議の意思を示していると、安田氏は話す。
しかし今回の艾氏のケースのように、巨額の追徴課税という当局の「いやがらせ」とも思える行為に対して、支持層が金銭的な援助といった具体的な方法をとったことは「画期的だ」と見る。ネットによる「反体制運動」は、政府を批判するコメントを書き込んだりデモを呼び掛けたりするという直接的なものに加え、リーダー的な役割を担える一部の人を具体的に支援する方法も今後、広がるかもしれない。
11月6日、艾氏はグーグルプラス上で、1万3610人から「貸付金」が寄せられ、その額は289万4917元(約3558万円)に上ったことを明らかにし「友よ、ありがとう」と感謝の意をつづった。一部報道では、7日の時点でおよそ5700万円に達しているとも言われている。