野田政権の「国家戦略会議」が発足した。12月中旬をめどに「日本再生の基本戦略」をまとめ、来年の年央に具体策を含む「日本再生戦略」を策定するという。
この国家戦略会議によく似たものがあった。自民党政権時代の「経済財政諮問会議」だ。どう違うのか。
経営代表に加えて連合代表もメンバーに
今回のメンバーは野田佳彦首相を議長に、藤村修官房長官と古川元久国家戦略担当相が副議長。総務、外務、財務、経済産業の各大臣と、白川方明日銀総裁、岩田一政日本経済研究センター理事長、緒方貞子国際協力機構理事長、古賀伸明連合会長、長谷川閑史経済同友会代表幹事(武田薬品工業社長)、米倉弘昌経団連会長(住友化学会長)。
主要閣僚と日銀総裁、学識経験者、経済界代表という構成は、自民党政権時代の経済財政諮問会議とほぼ同じ。民主党政権になり、経営代表に対抗する立場の連合会長が新たに加わったのが最大の違いだ。
時の政権が経済界代表や学識経験者を巻き込み、「民間の意見」を聞いて、政策の実現を図るスタイルは、小泉政権の経済財政諮問会議と同じだ。小泉政権では、経団連会長でトヨタ自動車会長だった奥田碩氏らが経済財政諮問会議の主要メンバーとなり、民間企業が求める政策を「民間ペーパー」にまとめ、諮問会議で実現を求める一方、郵政民営化など小泉構造改革の応援団としても積極的に後押しに動いた。
自民党政権時代、経済財政諮問会議のシナリオは財務省、総務省など主要官庁が作り、内閣府が調整役を務めていた。「民間ペーパー」も「実際は財務省OBのトヨタの担当者と内閣府が調整してまとめていた」(関係者)という。
小泉政権は、経済財政諮問会議で経済界や学識経験者から郵政民営化を求められ、その民意に応える形で民営化を実現した。当時の小泉政権は経団連から政治献金を受け取っており、その見返りとして経団連が求める規制緩和などの実現を経済財政諮問会議を通じて行ったといえる。
どのような「民意」がつくられるのか
果たして、野田政権の国家戦略会議はどんな舞台装置となるのか。野田政権は「政治主導」を掲げた鳩山、菅政権の失政を教訓に財務省との接近を図っている。消費税を引き上げ、財政再建を図るべきだと主張する野田首相の政策は、野田氏が財務相時代に財務官僚から刷り込まれたとされる。今回の国家戦略会議の設置、構成メンバーも財務省をはじめとする官僚が、民間や有識者代表の「民意」を利用して、霞が関が求める政策の実現を図ろうとしているのは間違いない。官僚主導が復活するのではないかという懸念がある。
野田政権が小泉政権と違うのは、経済界との距離感と連合の存在だ。財界代表の米倉氏、長谷川氏は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の早期交渉参加と「社会保障と税の一体改革」に基づく消費税増税を求めている。経団連は「米倉会長になって疎遠だった民主党政権との距離感を国家戦略会議で一気に縮め、消費税や法人税など税制の抜本改革を実現したい」ともくろむ。
しかし、関係者の間では「国家戦略会議は消費税や雇用問題などの基本路線で、経団連と連合が対立するのは明らか」との見方が強い。東京電力の原発事故を受け、「エネルギー政策の再構築」も議論する予定だが、脱原発依存に舵を切った連合と、東電など原発メーカーを抱える経団連の対立も予想され、先行きは不透明だ。