大腸がん患者の「特徴」を解明するため、おならを検査――。名古屋大大学院の研究チームが、ユニークな手法を開発した。
その結果、患者からはある特定の硫黄分が多く検出され、成果をまとめた論文は英科学誌「ネイチャー」関連誌に掲載された。大腸がんを早期に発見するうえで有効な検査方法になるかもしれない。
患者から「極端に多い量のメタンチオール」
大腸がんとおならの関係を研究したのは、歯科医で美白歯科研究会代表を務める山岸一枝氏と、名古屋大大学院工学研究科の八木伸也准教授。山岸氏は、歯周病患者の呼気に独特の臭気が含まれることから、その物質の解明に興味を抱き、成分を採取して分析するため、超微粒子を活用した触媒を研究する八木准教授に声をかけてスタートした。
歯周病はがん発症と関連があると言われているが、2人はこの「臭気」ががんと何かつながりがあると考えた。そこで、実際にがん患者が発する臭気を採取、分析することにした。
八木准教授に話を聞くと、「呼気だと不純物が多い」ということもあり、腸内にたまった「純度」の高いガス成分を調べるためおならを分析し、大腸がんとの関連性を調べることにしたという。近年、大腸がん患者は国内で増加している一方、自覚症状がないためがんを発見しにくいというのも、今後研究結果を役立てるうえで大腸がんを選ぶ動機づけになったようだ。
おならの成分を吸着するため、ナノ粒子を備えた小型の基板キットをつくり、直接おならを吹きかける方法で採取。2005~07年に、22人の大腸がん患者からサンプルを得た。その結果、別途採取した健常者のおなら成分と比較して、腐ったたまねぎのようなにおいがする無色の気体、メタンチオールが10倍以上の高さで検出された。
八木准教授によると、メタンチオールの量は食べ物によって多少は変化するという。実際にこの時も、健常者に硫黄分を多く含む卵を連日食べてもらったうえでおならを採取、分析した。メタンチオールの数値は上がったものの、わずかだったという。対照的に大腸がん患者の場合は、「極端に多い量のメタンチオールだった」と八木准教授は振り返る。
「人間ドックに取り入れられれば」
この検査結果を元に、山岸氏と八木准教授のチームは、おならに含まれるメタンチオールと大腸がんとの関連性を論文にまとめた。2011年8月11日、論文は消化器系の病気を扱う英国の専門誌「GUT」電子版に掲載。さらには英科学誌「ネイチャー」の関連誌「ネイチャー・レビュー(消化器病学)」10月号でも取り上げられた。
八木准教授は、ゆくゆくは「おならの検査」で大腸がんの早期発見につなげたいと考える。基板キットは簡単につくることが可能で、検査方法も痛みをともなわず手軽にできる。今後、おなら成分と大腸がんの因果関係がさらに究明されれば、初期症状のがんを発見する有効な手段になるかもしれない。「例えば人間ドックのひとつの項目におならの検査が取り入れられ、異常が見つかれば精密検査を受けるといったキッカケになれば」と、八木准教授は期待を寄せる。