東日本大震災では多くの病院が地震や津波で被害を受け、機器・装置が故障したり、停電や断水でライフラインを絶たれたりした。2011年10月18日から20日まで東京・新宿で行われた日本救急医学会(会長=行岡哲男・東京医科大学教授)は、最終日の20日、「緊急災害医療を支える建築空間」をテーマにしたシンポジウムを開いた。救急医だけでなく建築家も加わり、今回の経験を今後にどう生かすかという観点で活発な討論が展開された。
宮城県の石巻赤十字病院は被災地医療の中核として活躍できた。2005年、内陸部に免震構造で新築移転、北上川の氾濫も考慮して3メートルの土盛りをした「先見の明」の地震対策のおかげだった。おかげで建物被害はなく、地上のヘリポートも水没を免れた。
3日間は停電でエレベーターが使えなかったため、「もし屋上ヘリポートだったら患者の受け入れが困難だった」と石橋悟・救命救急センター長。都市ガスは2週間停止し、消毒や暖房、調理などに支障が出た。備蓄の食糧は「入院患者3日分」と少なく、調達に苦労した。避難してきた被災者が病院にあふれたことも想定外だった。
千葉の病院も断水に苦しんだ
千葉県の順天堂大学浦安病院は何よりも断水に苦しんだ。地下の配水管の破損は4日間で復旧したが、下水道の復旧が遅れ、10日間の断水・節水で診療に影響が出た。杉中宏司医師らは水の用途を23通りに分け、重要度に応じてS(不可欠)、A(減量可)、B(停止可)の3ランクに分類した。Sは透析や調理など6用途、Aも6用途。おかげで病院に必要な貯水量、給水量がわかった。
工学院大学建築学部の筧淳夫教授は、防災科学技術研究所の大型実験施設を使い、実物大の手術室や病室を作った4階建てビルの振動実験結果を報告した。阪神・淡路大震災級の地震で、耐震構造の場合は、手術室の機械が動き、大部屋のベッドがぶつかり合う、透析装置が倒れるなどの様子がビデオで確認された。免振構造でこれらの被害は防げるが、高層ビルなどに見られる長周期振動の場合は、天井からつり下げたものや固定していない装置がゆっくり大きく動き、被害が出る恐れがあることも指摘された。
(医療ジャーナリスト・田辺功)