インターネット通販で世界最大手の米アマゾン・ドット・コムが、いよいよ日本で電子書籍事業に参入する。2011年10月20日付朝刊で日本経済新聞が1面(東京最終版)で報じた。
米国の電子書籍市場で「圧勝」状態のアマゾンは、日本でもその力を見せつけるのだろうか。
出版社は「交渉しているのは事実」など
日経記事によると、小学館など出版大手と価格設定などで詰めの交渉に入っており、「年内にも日本語の電子書籍購入サイトを開設」する。中堅のPHP研究所(京都市)はすでにアマゾンと合意し、約1000点の書籍を電子化して提供する方針、とも伝えている。
記事に名前が挙がった出版社などに話をきいた。
小学館は「(1)交渉の提案は受けているが、進展しておりません。(2)交渉内容や時期については、守秘義務があるのでお答えできません」などと回答。講談社も「交渉しているのは事実」「守秘義務がある」と答えた。
ほかに、集英社は「報道されている事実はありません」。またPHP研究所は、担当者と連絡が取れなかった。アマゾンジャパン(東京)は「今回の件でコメントは出していない」とのことだった。
一方、新聞社などマスコミ各社は、日経記事と大筋でほぼ同様の記事を20日朝から昼過ぎにかけてネット配信した。
アマゾンは、自社サイトで日本の出版社の電子書籍を販売し、スマートフォンやタブレット端末などで閲覧できるようにする。アマゾン自社の電子書籍端末「キンドル」の日本投入も検討中とされる。
米国内では、アマゾンは価格決定権を握り、商品によっては9割引き設定にするなど低価格路線を進める一方、条件によっては「印税7割(日本の紙書籍では1割前後とみられている)」と著作者を優遇する施策を打ち出し、市場での存在感を強めていった。
電子書籍の国内市場調査などを手がけるインプレスR&D(東京)のインターネットメディア総合研究所などによると、アマゾンは、4億4000万ドル超(2010年、卸価格)の電子書籍市場のうち、過半数の60%を占め、「圧勝」状態だ。2位のバーンズ・アンド・ノーブル(約20%)を大きく引き離している。
2015年度は「10年度の3倍以上」予測も
アマゾンの日本市場参入は、米国のような「アマゾン圧勝」の状態を生み出すのだろうか。日本では現在、各社サイトの規格乱立による「使い勝手の悪さ」や「コンテンツの少なさ」が目立ち、「マスコミが2010年は電子書籍元年と騒いだ割には浸透していない」(某大手出版社関係者)状態だ。
同総合研究所は、日本市場規模(小売り価格)について、2010年度は09年度比13.2%増の約650億円で、15年度には10年度の3倍以上、2000億円になると予測している。
今回のアマゾン参入のニュースについては、「11年末から12年前半あたりに参入があるだろう」との予測を折り込んでおり、15年度の予測数字は今のところ変更の予定はないという。
アマゾンの市場占有率については、品揃えの規模や価格の動向が不透明なため、まだ分からないが、「参入が市場規模を拡大することは間違いない」という。
価格決定権は、米国のようにアマゾン主導になるのか、それとも日本の出版社と妥協点を見いだすのか。
電子書籍にかかわる出版関係のある男性は、「米国流をそのまま、というわけにはいかないだろう」とみる。日本の商・流通習慣などを踏まえ、「日本の出版社側へある程度配慮した形」に落ち着くのではないか、という。
参加する出版社が少なければ、電子化できる書籍の数も少なくなり、サイトの魅力が減じる可能性があるからだ。一方、十分な低価格化が進まなければ、他の先行サイトとの競争力が鈍ることにもなる。
「詰め」の段階と報じられるアマゾンと日本の大手出版社との価格設定交渉は、どんな形に落ち着くのだろうか。