神奈川県の黒岩祐治知事が選挙公約で掲げた「4年間で200万戸の太陽光パネル設置」の公約を「忘れてほしい」などと述べて、事実上撤回した。2011年10月7日の県議会予算委員会終了後に記者団の質問に答え、今後は数値目標にこだわらず、「かながわスマートエネルギー構想」を推進していくという。
黒岩知事は東日本大震災後の4月10日の統一地方選で太陽光発電の推進を呼びかけて当選。街頭演説ではソーラーパネルを持ち歩き、「太陽光で脱原発」を訴えていた。
新構想は「4年で55万戸分」
神奈川県に設置されている太陽光パネルは現在、黒岩知事就任後8月までの5か月間に約8200戸分、累計で約4万8000戸分になる。今年度は昨年を上回るペースで設置が進んでいるが、目標の「200万戸」にはほど遠い。
それもあって、黒岩知事の公約はすでにトーンダウンしていた。
9月に公表した「かながわスマートエネルギー構想」は、2020年度に県内の消費電力量の20%以上を、太陽光発電に風力などを含めた再生可能エネルギーでまかなう計画で、このうち太陽光発電分は「4年間で約55万戸分」、既設を含めても59万戸分とした。選挙公約時から「145万戸」も少ない、公約の修正だ。
9月12日の県議会本会議で、黒岩知事は「4年間で200万戸分」の公約を「リセット」したとし、今後新構想について理解を得るため、県民との意見交換会などで説明していくとした。
公約はメッセージ。「正確さよりもわかりやすさ」
黒岩知事は2011年10月7日の予算委員会で、新構想と公約との兼ね合いについて、「200万戸分は計画停電を起こさないために打ち出した数字で、精査したものではない」と釈明し、「(選挙中は)メッセージ性のために正確さよりもわかりやすさを考えた」という。
委員会後には記者団に、「かながわスマートエネルギー構想を新たに出したことで、『4年間で200万戸分』は忘れてほしい。ただ、風力や水力、地熱などを合わせて、(200万戸分を)目指していく思いは変わらない」と理解を求めた。
「4年200万戸」の目標は、短期決戦だった知事選直前の限られた時間でまとめた公約だけに無理があったことは否めない。太陽光発電への注目度こそ高まったものの、見通しは甘かったと言わざるを得ない。
また、選挙公約時には「自己負担なしで太陽光パネルを設置する」ことも掲げていたが、そのことには口をつぐんだまま。各家庭にとって200万円前後の負担がなくなるというのだから、この訴求効果は大きかったとみられる。
議会側は「修正はやむを得ず、現実的」との見方が強い。神奈川県の2009年度の消費電力量における再生可能エネルギーの割合は2.3%程度しかない。「14年度に6%、20年度に20%の目標も決して楽ではない」と寛大に受けとめている。
10月6日付の神奈川新聞の社説は「撤回し理解を求めては」と提案。「忘れてほしい」発言はその翌日のことだった。知事の口から「撤回」の言葉は聞かれないが、やはり事実上の公約撤回なのだろう。