意味ではなく音を表す「表音文字」として知られるハングルが、国外に輸出されるケースが続いている。
「文字を持たない言葉が、このまま絶滅しまうのを防ぐため」として、インドネシアの少数民族の「公式文字」として採用されたほか、ボリビアでも同様の取り組みが始まっている。ボリビアの取り組みは、インドネシアの例を見た韓国の駐ボリビア大使が、ボリビア政府に働きかけたのがきっかけ。官民を挙げた輸出攻勢だとも言えそうだ。
独自の文字がない言語にハングル採用
初めてハングルが国外に輸出されたのは2009年。インドネシア中部のスラウェシ島のバウバウ市のチアチア族(約6万人)は独自の言語を持ってはいるものの、これを表記するための独自の文字がなく、言語自体が消滅する危険が指摘されていた。そこに、大学教授などでつくる民間のハングル普及団体「訓民正音学会」がハングルの採用を働きかけ、09年8月に公式文字として採択された。
ハングルで書かれたチアチア語の教科書を使って、小学校で授業が行われている。公式採択にあたっては、チアチア族の先生を半年間にわたってソウルに招待し、ハングルや韓国語のトレーニングを行っている。
この事例に着目したのが、駐ボリビアの韓国大使だ。ボリビアには36の先住民族がおり、国民の過半数を占める。さらに、その多くは独自の文字を持たず、スペイン語の表記を借用しているものの、発音の表記に難があるとされる。この「独自の文字がない」という点に着目した形だ。中央日報によると、在ボリビア韓国大使館は10年7月から、首都ラパスで、ボリビアやペルーに住む先住民族のアイマラ族(200万人)のコミュニティで対象にハングル教育を行っている。モラレス大統領やチョケワンカ外相がアイマラ族出身だということもあって、ボリビア側も提案に前向きな姿勢だ。
朝鮮日報が10月3日に報じたところによると、ソウル大学のラテンアメリカ研究所がボリビアの大学と「ハングル普及事業に関する了解覚書」を交わしたといい、ハングルの本格的な普及を進めたい考えだ。
問われる「多民族国家」との整合性
ハングルは1446年に当時の李氏朝鮮第4代国王の世宗が公布。「子音字母」「母音字母」と呼ばれるパーツを組み合わせて、様々な発音を表現している。当時の朝鮮半島では漢文が主に使われており、ハングルは庶民を中心に急速に普及した。
複雑な発音でも、かなり忠実に記録できるのが特徴だが、、09年のインドネシアのケースからは、導入に向けての課題も浮上している。多民族国家のインドネシアでは、「多様性の中の統一」をスローガンに掲げ、アルファベットで表記するインドネシア語を公用語としている。そのような状況で新たな文字を採用することについては、インドネシア政府内から、
「わざわざハングルを輸入する必要はない。アルファベットで表記すれば良い」
といった声もあがったという。さらに、ハングルが公式文字として採択される際に、韓国側は韓流などの韓国文化を紹介する「韓国文化センター」を建てるなどの経済協力を申し出ている。このことから、「特別待遇」に対する他の少数民族からの嫉妬を懸念する声も根強い。