世界金融の中心地とも言えるウォール街周辺で行われたデモは、700人以上が拘束されるという事態に発展した。デモの主な参加者は、格差是正を訴える若者だ。
米国は先進国の中でもとりわけ高い失業率に苦しんでおり、その矛先が「富の象徴」とも言えるウォール街に向けられた形だ。すでにデモはロサンゼルスやシアトルなどの西海岸にも飛び火しており、さらに広がりを見せている。
「21世紀の資本主義」が根本の原因だと主張
デモは約2週間前から続いており、ここ数日で一気に本格化した。特にデモの参加者が主張しているのが、格差問題と高失業率の改善だ。デモ隊は「我々は99%だ」とするプラカードをかかげ、1%に過ぎない富裕層が富を独占しているなどと批判を展開している。
デモを支持する著名人も少なくない。例えば「華氏911」などの作品で知られる映画監督のマイケル・ムーア氏は9月30日、「名門」として知られるジョージタウン大学の講堂で演説した。ムーア氏は、
「問題なのは債権ではない。仕事が必要だ!仕事!仕事!」
などと叫び、現在米国に降りかかっている災難は「21世紀の資本主義」が根本の原因だと主張。参加者から喝采を浴びた。
10月2日夜には、01年のノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授も参加。08年の「リーマン・ショック」の際には、市場を十分に監視していなかったとして、米政府の対応を批判したことでも知られており、参加者を前に、2500万人がフルタイムの職に就けずにいる現状を訴えた。
家族4人年収2万2314ドル以下が増える
実際に、米国内での格差は広がっている。米国では、家族4人で年収2万2314ドル(171万円)以下、または単身で1万1139ドル(約85万円)以下の層を「貧困層」と定義しているが、9月13日に発表された国勢調査の結果によると、10年の貧困者の数は前年より260万人多い4620万人で、統計を初めて公表した1959年以降最悪を記録した。人口に占める割合(貧困率)は前年比0.8ポイント増の15.1%で、93年以来最悪となった。また、世帯年収を物価上昇分を調整した上で比較すると、中間層は最近30年間で11%しか増えていないのに対して、人口の5%を占めるに過ぎない富裕層の世帯年収は42%も増加している。
失業率も改善の見通しが見えない。国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」(World Economic Outlook、WEO)によると、先進諸国の2010年の失業率は8.3%だが、米国はそれを上回る9.6%。米国の失業率は08年には5.8%にとどまっていたが、同年秋のリーマン・ショックを機に急上昇している。現時点では世界経済は回復基調だとみられているが、11年の失業率は9.1%、12年は9.0%だと見込まれており、劇的な改善は望めない状況だ。さらに、深刻さを増しているギリシャの財政危機の影響で、世界的に失業率が悪化に転じる可能性もある。
なお、このWEOによると、10年の各国の失業率は、欧州が10.1%、日本が5.1%、カナダが8.9%。先進諸国の中では、日本の失業率は比較的低いとされている。