農業などあらゆる分野の関税撤廃を原則とする環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉参加を巡り、日本政府の決断の時が迫っている。成長戦略に欠かせないというのが政府の暗黙の認識だが、農業などへの影響を懸念する声を無碍にもできない。TPP交渉参加9カ国が大筋合意を目指す2011年11 月末に向け、野田佳彦政権は難しい判断を迫られる。
「できるだけ早期に結論を得る」
野田佳彦首相は9月21日の日米首脳会談でオバマ大統領に、こう強調。11月に向け、意見集約を急ぐ意向を伝えた。
普天間、TPP、牛肉などで「進展」強く求める
大統領は「(日本が)議論していることを歓迎している」と期待感を示した。普天間基地移転問題を含め、会談について首相は同行記者団に「個人的な信頼関係を築く、いいスタートが切れたと思う」と語った――というのが、表向きの日本政府の説明だ。
だが、実際に会談は、「ジョーク一つ出なかった」(首相同行筋)という、よく言えば実務的、悪く言えば冷ややかなものだった。冒頭の報道陣に公開された席では「野田首相とすばらしい友好関係を大切にする」などと友好ムードを演出した大統領は、報道陣が退出すると、態度を一変させ、普天間、 TPP、さらに米国産牛肉輸入問題など、懸案を矢継ぎ早に取り上げ、「進展」を強く求めた。
特にTPPについて大統領は野田首相に「TPPの交渉参加への検討が進んでいないのに、欧州連合(EU)や中国との自由貿易協定(ETA)交渉だけ進んでいることを心配している」と不満をあらわにしたという。
外交評論家の手嶋龍一氏は、TPPが単なる経済問題ではなく戦略的な問題であり、アメリカと中国のどっちを日本が選ぶのかという呼び掛けと捉えられる、と解説している(9月23日の「報道ステーション」)。
TPPは菅直人前首相が1月、交渉参加の是非を6月までに判断すると表明。経済界は歓迎し、農業関係者からは「原則関税撤廃のTPPは日本の農業を破壊する」などと強く反発。3月の東日本大震災で国内議論が中断し、交渉参加の是非の判断は棚上げされ、野田政権に判断を委ねる形になっていた。9カ国による交渉は11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での合意をめざしている。
ただ、9カ国交渉もやや遅れ気味といわれ、「それだけ日本が入り込む余地ができる」(関係者)との見方もあるが、日本が早く交渉参加を意志決定しないと各国と交渉ができず、他の交渉国によって出来上がったルールを押し付けられるだけになりかねない。