ユッケはもう当分食べられないかも――そんな衝撃が全国に広がっている。厚生労働省が2011年10月1日、ユッケなど生食用牛肉の表面過熱を義務付ける罰則付きの新基準を施行したためだ。
「焼肉酒家えびす」でユッケを食べた4人が食中毒死したことを受けての新基準だが、規制強化によりユッケの提供はこれまで以上に難しくなることが見込まれ、ほとんどの焼肉店が当面販売を見合わせることになりそうだ。
250~300グラムを85度で10分加熱
今回の新基準ではユッケ、タタキなどに使う肉について、表面から深さ1センチ以上の部分を、60度で2分以上加熱することを義務付けている。実際にこの深さの部分まで60度の熱を通すためには、250~300グラムの肉に対し85度で加熱する必要があるといい、厚労省ではこれを実際の加熱時間・温度の基準としている。
そしてそこから表面を削り取って(トリミング)、内側の火の通っていない部分だけをユッケなどとして使うこととなる。表面の加熱された部分は捨てざるを得ず、コストアップは避けがたい。
新基準では1皿700円のユッケが2000円近くまで値上がりする、と見る関係者もいる。これでは事実上ユッケは出せなくなる、といってもおかしくない。
また「焼肉屋さかい」などを展開するさかいでは、「新基準は施行されたが、その基準をクリアした牛肉はまだ十分に出回っていない。お客様の心情に配慮し、また他社の動向を見ながら、今後販売再開を検討したい」と話しており、生肉用に加工された牛肉が十分市場に出回るかどうかも不透明な状況のようだ。
これまでのような食感や風味を出せない
5月以降もユッケ提供を続けてきた数少ない店の中には、今回の新基準施行で販売を断念した店もある。
都内に8店舗を展開する「焼肉DINING太樹苑」では2011年9月30日、「厚生労働省の規格基準によりご提供が困難になりました」として、しばらくの間ユッケを始めとした牛肉の刺身類の提供を見合わせると発表した。
太樹苑では5月以降も、従来の指針を満たす形でトリミングを行い、ユッケの提供を行ってきた。しかし厚労省の掲げる「85度、10分」の加熱を実際に試してみたところ、「この方法では、肉の細胞や水分に相当の影響を与えこれまでのような食感や風味を出せないという結論に至りました」という。そのため太樹苑では、食感・風味を損なわず、厚労省の基準と同等の効果がある加工・調理法が確立されるまで、ユッケの提供を取り止めるとしている。
また、安全基準が以前から確立されている「馬肉」を使ってユッケを提供する店もある。ユッケ騒動以前から「さくら(馬肉)ユッケ」を販売してきた焼肉チェーンの「情熱ホルモン」では、9月21日から「さくらユッケ安全宣言」としてセールをスタート。安全性を強調して売り出している。