内閣府の原子力委員会は2011年9月20日、政府のエネルギー政策の指針となる「原子力政策大綱」策定会議メンバーの一部を交代、新たに慶応大学経済学部教授の金子勝氏らを選任した。金子氏は東京電力の福島第1原発事故後、「日本は脱原発で再生を図るべきだ」と積極的に発言する論客として知られる。
新大綱策定会議のメンバーには、これまでもNPO法人「原子力資料情報室」共同代表の伴英幸氏が反原発の市民代表として参画していたが、数多くのテレビ出演や著作で知られる脱原発の論客が新たに加わることで、今後1年間とされる新大綱策定に向けた議論が注目される。
最新の著作で「無責任体制」を痛烈に批判
政権への批判精神旺盛な金子氏が、政府の審議会の委員に就任するのは初めて。金子氏はテレビの報道番組などにコメンテーターとして数多く出演。経済学者としての専門は財政学だが、農業や環境エネルギー政策など広範なテーマについて積極的に発言している。
8月に出版した最新の著作「脱原発成長論 新しい産業革命へ」(筑摩書房)では、1990年代初頭のバブル経済の崩壊を招いた大手銀行と大蔵省(現・財務省)の危機管理能力の欠如は、今回の東電や経済産業省、原子力安全委員会など「原子力ムラ」の無責任体制に酷似していると痛烈に批判。「財界も官界も、責任を問われることを恐れて未だに脱原発へと本格的に舵を切れずにいる。だが、ここで変われなければ、日本はますます世界の動きから取り残されていき、それは『終わり』を意味する」と警告。再生可能エネルギーへの転換を「新しい産業革命」と位置付け、具体的な打開策を提言している。
現行の原子力政策大綱は2005年に策定し、「今後10年間程度に進めるべき原子力政策の基本方針」を示した。具体的には「原発によるエネルギーの安定供給と地球温暖化対策への一層の貢献」など、推進すべきメリットが盛られている。原子力委員会は昨年12月から、これらのメリットをさらに強調するため新大綱の策定作業に着手したが、3月11日の福島第1原発の事故を受け、4月5日に策定作業を中断。「安全に関する国民の信頼が失われるなど原発を取り巻く社会環境は大きく変化した」「有識者や国民の意見を踏まえて考慮するべき課題を整理する必要がある」とし、今夏、策定会議を再開すると表明した。
「脱原発」派は依然として少数派
新大綱策定会議のメンバーは28人。原子力ムラのドンのひとりで原子力委員会委員長の近藤駿介氏(東大名誉教授)を議長に、電力会社代表として電気事業連合会会長の八木誠氏(関西電力社長)のほか、原発立地自治体代表、NPO代表、学識経験者、産業界代表などで構成する。
原子力委員会の近藤委員長は東電の原発事故後も推進の姿勢を変えない「筋金入りの原発推進派」(関係者)。しかし、ナンバー2である原子力委員会委員長代理の鈴木達治郎氏(元電力中央研究所研究参事)は、同じ原子力ムラの一員ながら、核燃料サイクルには慎重姿勢を示すなど、「原発のメリット、デメリットを冷静に分析できる良識派」として知られる。原子力委員会の委員(委員長と委員4人)は国会同意人事で、鈴木氏の起用(2010年1月)は「必ずしも推進一辺倒ではないバランス人事」として、脱原発派からも評価された。
今回の新大綱策定会議のメンバーに金子氏が加わっても、脱原発派が少数であることは変わらない。しかし、エネルギー政策を本気で見直そうとする萌芽として、大いに注目に値する。