福島県産の米から規制値ぎりぎりの放射性セシウムが検出され、これでも出荷するのかと関心を集めている。もしそうなら、消費者は納得するのだろうか。
「ひとめぼれ」の玄米から、1キログラム当たり500ベクレル――。福島県二本松市の旧小浜町で行われた予備調査で検出されたと、県が2011年9月23日に発表した放射性セシウムの線量だ。
放射性物質が山にぶつかって落ちた可能性も
501ベクレル以上が規制値超えになるため、福島県水田畑作課によると、この線量なら出荷制限の対象にはならない。ただ、重点調査の対象になる200ベクレル超えとなり、今後は、7~8倍に検体数を増やすことになった。
もし本調査でも、500ベクレル以下であれば出荷は可能だ。
一部報道によると、この米を育てた農家は、「消費者は安全とは思わない」として、収穫も出荷もしないと語った。県の水田畑作課でも、「販売するかどうかは別の問題」とした。しかし、規制値に近い汚染が分かったことで、ネット上では、福島産米の出荷について不安を訴える声が相次いでいる。
不安の背景には、このほかにも測定されていない「放射線ホットスポット」があるのではないかという疑念がある。
水田畑作課の担当者によると、県内の土壌はセシウムが吸着する粘土質が多く、稲が吸い上げにくいと言われている。予備調査では、今回のケースを除けば、161ベクレルが最も高かった。しかし、旧小浜町は、砂が多い土壌だったため、稲が吸い上げた可能性もあるという。また、山間部にあるため、原発から流れた放射性物質が山にぶつかって落ちた可能性もありそうだ。
旧小浜町近辺はそもそも、土壌のセシウム濃度が高かった。稲の作付制限がかかる土壌1キログラム当たり5000ベクレルに近く、4月の水田調査では4601ベクレルもあった。
とすると、こうしたホットスポットを調査する必要はないのか。
10年産米の買いだめも起きていた
しかし、福島県の水田畑作課では、水田の面積が多く、どこから手をつけていいか分からないため、水田についてのホットスポット調査は独自にしていないという。土壌の入れ替えなども進んでいないとしている。
また、たとえ規制値内の米であっても、消費者の不安が解消できない問題もありそうだ。501ベクレルに比べ、500ベクレルなら大丈夫というのは説得力がないからだ。
日本消費者連盟の富山洋子代表運営委員は、不安解消のためには、米のパッケージにセシウムなどの線量を表示することが必要だと指摘する。
「内部被ばくではとりわけ、これ以下なら安全というしきい値はないとされています。お米を食べるかどうかは、最終的には、1人1人の判断になりますから、線量などの情報を消費者にきちっと提供してほしいですね」
客の不安に応えようと、実際に線量を表示しようという米販売店も出てきた。
栃木県内でチェーン店を展開する「お米ひろばさとう」では、検査機関に依頼して生産者ごと品種ごとに線量を測り、2011年10月から店頭に表示することにしている。佐藤直人社長(37)は、こう言う。
「福島県の調査対象が旧町村と大枠があいまいですし、水田も端と真ん中では数値が違うと思います。ですから、お客さんも不安で、どう判断していいか分からないと聞きます。8月には、10年産米の買いだめが起こり、1家族で100キロ買う人もいっぱいいて売り切れてしまいました。今回の線量表示は、お客さんの判断材料の1つにしてもらえればと考えたことです」
一方、線量表示などについては、異なる考え方もある。
スーパー大手の「イオン」では、広報担当者が「表示を増やすと、かえって不要な不安をあおることにもなります。うちでは、不必要で過度の表示はせず、しっかり検査していることを伝えています。10年産米については、偏った動きは見られず、お客さまも冷静に判断されているようです」と話している。