世界中で金の価格が急落している。株式や債券のみならず、安全資産といわれる金までも大きく値下がりして、世界的な金融不況をもたらした「リーマン・ショック」を彷彿とさせる。
連休明けの2011年9月26日の東京工業品取引所(TOCOM)の金先物価格は、取引の中心である12年8月物が前営業日(22日)に比べて、じつに509円も暴落して1グラムあたり3870円となり、4000円を割り込んで取引を終えた。
下落幅、リーマン・ショックに迫る
9月26日のTOCOMの金先物市場は、相場のあまりの急落に対応するため、取引を一時中断するサーキットブレーカーを発動した。
23日にはニューヨーク商品取引所(COMEX)で11年12月物が前日比101.9ドル安の1オンス1639.8ドルで取引を終えるなど、ロンドンやNYといった海外市場の「下落」の流れは止められなかった。
この夏、ギリシャの財政不安で欧州危機の深刻の度合いが増したことや米国景気の後退懸念を背景に、金の価格は高騰。NYの金先物市場では11年8月10日に、史上初めて1800ドルを突破した。急速な下落はその上昇分を一気に吐き出す勢いにある。
TOCOMによると、下げ幅は記録がないのでわからないとしながらも、9月26日の509円安は1日の下落幅としては「相当な大きさで、かなりのインパクトがあったはず」と話す。
リーマン・ショック当時は、08年10月9日から末日までの約20日間に、800円下落。それに迫る下げ幅をたった1日で記録したのだから「歴史的な下げ幅」であることには違いない。
急落の原因には、上昇していた金をひとまず換金して利益を確保し、それを株式などの損失に穴埋めする動きがある。さらには、金は工業用や宝飾用に買われることが少なくないので、世界的な景気の後退懸念が強まって、将来的に需要が落ちるとの見方が広がったこともある。
第一生命経済研究所・首席エコノミストの嶌峰義清氏は、「ヘッジファンドなどの投資家はドル安が進むなかで金への投資を傾斜してきたが、リスク回避が強まる一方で、FRB(連邦準備制度理事会)が市場の予想範囲内で金融緩和策をとどめた結果、ドルが上昇。金売りに傾けざるを得なかったこともある」と指摘している。
「中長期的には金の上昇余地はまだある」
こうした世界的な金価格の急落を、「リーマン・ショック時の状況と似ている」と指摘する向きがある。前出の嶌峰氏は、金急落の背景でリーマン・ショック当時と似ている点として、リスクを回避しようとする資金が株式や債券ばかりか金にまで波及したことと、ドルが(対円などの一部の通貨を除いて)上昇したことをあげている。
ただ、リーマン・ショック当時と比べて、「投資家も(リーマン・ショックの)経験を生かして対応している。また、当時は金融機関が相次いで破たんした影響が大きかった」(TOCOM)と、状況の違いもあるという。
嶌峰氏は、「金価格はしばらく上下に振れやすい相場が続くだろうが、先進国の金融緩和措置が当面続くことから、再び金に資金が集まると思われ、中長期的には金の上昇余地はまだある」とみている。