ダイハツ・技術本部エグゼクティブチーフエンジニア上田亨氏に聞く
軽自動車大いなる「復権」目指す リッター30キロ「ミラ イース」の挑戦

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   環境への配慮がより一層求められる中で、ガソリン車が注目を集めている。なぜ、と思う人もいるかもしれないが、ハイブリッドカーをも凌ごうかという「低燃費ガソリン車」が続々と発売されているのだ。

   2011年9月20日にダイハツが発売した新型の軽自動車「ミラ イース」(以下、イース)は、実燃費に近い新しい測定基準の「JC08モード」で、1リットルあたり30キロメートル走行を実現した。新たに開発した低燃費技術「e:Sテクノロジー」を採用、ガソリン車では国内で唯一の30キロ到達だ。しかも、販売価格が80万円を切るというのも衝撃的だ。

   「イース」を開発したダイハツ・技術本部エグゼクティブチーフエンジニア上田亨氏に、その秘密と軽自動車の将来について聞いた。(聞き手・ジェイキャストニュース編集長大森千明)

低燃費実現した3つの見直し

「リッター30キロは、少しずつムダを省き、積み上げた結果」と、上田氏は話す。
「リッター30キロは、少しずつムダを省き、積み上げた結果」と、上田氏は話す。

   大森 新型軽自動車「イース」に採用した新たな低燃費技術、「e:Sテクノロジー」の特徴は何ですか。

   上田 車の場合、ガソリンの持つエネルギーの3割程度しか使われていません。残りの7割を音や熱に捨てていて、そのムダをなんとか減らしたいと思いました。ポイントはおおざっぱに言って、3つあります。

   一つ目が、エンジンとCVT(無段変速機)の進化です。エンジンの圧縮比の向上などで燃焼効率をアップ、また、CVTの改良により、伝達効率を向上させました。2つ目が車両の進化です。車体の軽量化を徹底的に追及するとともに、空気抵抗の低減やタイヤが転がるときの抵抗軽減にもこだわりました。そして3つ目がエネルギーマネジメント(効率管理)。停車前のアイドリングストップを行う新エコアイドルの採用や、エアコンやオーディオ機器などに使う電気の充電のタイミングを減速時に集中させるエコ発電制御によって、エンジンの負荷を抑えました。

   どれも特に目新しい技術ではありません。少しずつムダを省き、それを積み上げていく。このやり方でどこまで燃費効率を上げられるか、にチャレンジしたのです。

   大森 細かな積み上げ方式で大幅な向上はできるのでしょうか。

   上田 「イース」は燃費の最終到達目標を、「1リットルあたり30キロメートル」にするところから始めました。達成するには、当社の軽自動車「ミラ」に比べて約40%の燃費向上が必要になります。なぜ「リッター30キロ」かといえば、「イース」のコンセプトを発表した2009年当時、ハイブリッド(HV)カーが「エコカー」として評価が高まり、トヨタの「プリウス」の「リッター30キロ」が省エネカーの目標とされていたためです。

   この「リッター30キロ」を軽自動車で達成し、さらにエコカーイメージを打ち出すには、HVやEV(電気自動車)とは違う特長が必要と考えました。言い換えると、「低燃費」と「低価格」が相まって「エコ」につながるということを、はっきりと形にしていかなければならなかったのです。

   大森 具体的にはどのような点を見直したのでしょうか。

   上田 たとえば軽量化については、骨格の合理化構造と部材の最適化を行うとともに、インパネ(ダッシュボード)やシートなど、内装部品についても一つひとつ見直しました。また、CVTでは構造部品の材料を鉄からアルミに変更するなど車両全体で大人一人分と同等の約60キログラムの軽量化を図っています。

   当社では2010年発売した「ムーヴ」から「アイドルストップ」の技術を導入していますが、これも見直しました。「ムーヴ」では車が止まったところでエンジンがストップしますが、これを時速7キロメートルで停止することにしました。これで、燃費が少々向上します。「アイドルストップ」を採用すると、停車後のブレーキの利き具合などが心配されますが、これも設計段階からブレーキ優先の仕組みにつくり直しました。安全性の心配がないよう工夫をしてあるのです。

月産1万台くらいは売りたい

ダイハツ技術本部・エグゼクティブチーフエンジニアの上田氏(右)と大森編集長(左)
ダイハツ技術本部・エグゼクティブチーフエンジニアの上田氏(右)と大森編集長(左)

   大森 「イース」のデザインですが、そうとんがった印象ではありませんね。

   上田 たしかにスポーティーとまではいえません。しかし、上質でシンプルなデザインです。みんなに親しみをもってもらい、幅広い人に乗ってもらうためのデザインです。もちろん、空気抵抗などを考慮し、後部を絞込むなど、シャープなデザインになったのは燃費向上を意識したからです。

   大森 販売価格が一部車種では80万円を切りました。価格が上昇気味だった軽自動車の世界では衝撃的な水準です。

   上田 軽自動車の売れ筋は「100万円」がひとつの目安で、ここを超えると売れ行きは鈍くなります。その意味では軽の将来を見据えた価格ともいえます。

   ただ、ここまでの低価格を実現するためには、従来のやり方では限界があります。そこで最初の設計段階からすべてを見直すという試みに挑戦し、結果的に大幅に削減できました。できるだけシンプルな「絵」(設計図)を描き、工程も減らしていきました。

   大森 「低燃費」ガソリン車は人気です。販売目標はどのくらいに置いていますか。

   上田 「イース」は話題性もあるので、月産1万台くらいは売りたいですね。現在、予約販売中ですが、通常の3倍増と好調な滑り出しをみせています。

   大森 HV車やEV車も含め、将来の軽自動車はどんな方向を目指すのですか。

   上田 HVやEVを採用すると、軽自動車は、車体重量が重くなりすぎます。つまり燃費が悪くなる。そして、価格も高くなるでしょう。HVやEVについては、研究は続けていきます。しかし、新興国を含め、少なくともあと20~30年、ガソリンエンジンが残るのではないでしょうか。今のところはガソリン車をさらに進化させていくことを第一に考えています。

   もちろん、OEMでの提供も可能ですし、普通車にもこのやり方は通じると思います。軽自動車の位置づけを高め、軽自動車の「復権」のためにも、商品バリエーションを増やしていきたいです。

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