ペナントレースのヤマ場に差し掛かった時期というのに、今季限りで退任を明らかにした日本ハムの梨田昌孝監督。何があったのか。さまざまな憶測を呼んでいる。
「今季限りで辞める」と梨田監督が表明したのは2011年9月15日、東京ドームでのことだった。「今年一年、燃え尽きて終わろう、と思ってシーズンに臨んだ」と、予定通りの行動であることを強調した。
4年間すべてで勝率5割以上の好成績
球団にその意思を伝えたのは8月下旬で、了解を得たのは9月14日だったという。恐らく8月から9月にかけて慰留を受けたはずである。
優勝争いの大事な時期にこのような事態になったことについて「球団の後任人事も考えて」としているが、実際は辞意がメディアに漏れたからである。黙秘するより早く明らかにした方が試合への影響が少ない、と両者が判断したからだろう。
契約更新の条件が折り合わなかったから、という声もなくはないが、梨田監督を知る関係者は「そういう性格ではない」。確かに、これまで金銭などでもめたという話は聞かない。
監督が辞めるケースは大きく分けて(1)契約切れ (2)不成績の責任 (3)監督個人の事情――がある。今回の梨田監督の場合、(3)に当てはまる。確かに契約は今季限りだから(1)なのだが、日本ハムとしては今、彼以上の指揮官はいないだろう。
プロ野球の監督人事は夏の終わりから秋口にかけて最も動きがある。(1)(2)の該当する監督は、この時期に「首筋ヒヤリ」となる。夏休みが終わるころに、球団からオフの補強や練習予定の話がないときは、多くの場合、新監督の候補を探している。
「選手は直感的に『監督クビ』が分かる。そういう状態になった途端、よそよそしくなる」と監督経験のある評論家氏は言う。「コーチたちは次の就職探しでそわそわし始める」とも。
自宅のある関西球団が虎視眈々?
梨田監督の辞め時は「最高のタイミング」といっていい。その理由は、また監督要請の話が必ず来るからである。日本ハム監督になってから08年3位、09年優勝、10年4位、今年は現在2位。すべて勝率5割をマークしており、「優れた監督」の一人。欲しい球団は多いだろう。
梨田監督は近鉄時代、球界を代表する強肩のスター捕手だった。体をグニャグニャしながらの打撃は「コンニャク打法」と呼ばれた。そしてハンサムな顔立ち。NHK解説者のときは芸能人顔負けの人気だった。
自宅は関西である。50代半ばを過ぎての札幌住まいはきつかったと思う。野球界にとって必要な指導者だけに今後の動きが気になる。予想されるのは阪神やオリックスの誘いだ。
阪神の真弓明信監督は今年の本社株主総会で手腕を疑問視する異例の声が上がった。クライマックスシリーズ進出を逃すと交代もありうる。阪神はこれまで、野村克也、星野仙一を、それぞれがヤクルト、中日を退いた直後に監督に招いている。
オリックスは近鉄が球団経営から撤退したあと、近鉄選手を獲得している。チームのニックネームは近鉄のバファローズを使用。梨田監督との接点は少なくない。
間違いなく「最も高く売れる監督」なのである。辞める監督が注目を浴びてメディアに追いかけられることになる。(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)