郵政民営化を見直す郵政改革法案が次期臨時国会の焦点に改めて浮上してきた。前国会から継続審議となり、野党の反発も強く、成立の見通しは暗かったが、東日本大震災からの復興財源として、郵政株売却論が浮上し、法案審議にも影響を与える可能性が出てきたのだ。
同法案は、民主党と連立を組む国民新党の「1丁目1番地」。小泉純一郎内閣の郵政民営化を見直すもので、持ち株会社の日本郵政に郵便局会社、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険がぶら下がる現在の5社体制から、郵便局会社と日本郵便を持ち株会社に統合して3社体制に再編するのが柱。
日本郵政グループの経営内容は急激に悪化
現行法では、日本郵政の株は3分の1超を残して売却、銀行、保険子会社株は2017年9月末までに完全売却と定めていたが、改革法案は、日本郵政への政府出資と、銀行・保険子会社への日本郵政の出資比率を、それぞれ3分の1超と定め、国の関与をより強め、郵便のみに義務づけているユニバーサルサービスを銀行、保険にも課す。
鳩山由紀夫内閣が2010年4月に国会に提出し廃案に。菅直人内閣が同年10月の臨時国会に再提出したが、自民党の反発で審議はまったくされぬまま継続審議を繰り返している。
経営形態という根幹が「宙ぶらりん」になって、日本郵政グループの経営は混迷を深めている。郵便事業会社(日本郵便)は郵便物 が年3%のペースで減少、ゆうちょ銀行の貯金残高はピークの1999年度の3分の2、かんぽ生命保険の保有契約件数も1996年度に比べ半減。日本郵便は2期連続の営業赤字の見込みで、ゆうちょ、かんぽ、郵便の3社からの手数料を収入源とする郵便局会社は415億円の減益を予想。営業黒字80億円を確保するものの、経営内容は急激に悪化し、全国約2万4000の郵便局の経営も揺らぎ始めている。
法案が通らないため、住宅ローン、がん保険など取り扱えない金融商品の販売や、郵貯の預け入れ限度額の2000万円への引き上げは棚上げされたままで、収益改善は難しく、組織 再編による効率化も進められず、「両手両足を縛られた状態で泳げと言われているようなもの」(日本郵政の斎藤次郎社長)が続く。
郵政改革法案の成立が株売却の前提?
そこに飛び出したのが、復活した党税制調査会の藤井裕久会長(元財務相)の発言。複数の新聞の2011年9月8日朝刊に掲載されたインタビュー記事で復興財源について、政府資 産の売却で増税幅を圧縮する考えを強調。郵政株について「頭の一部にある」(日経新聞)などと述べた。川端達夫総務相も就任早々の4日のTV番組で、郵政株は「大きな財源だ」と明言。連立与党の国民新党の亀井静香代表も、郵政改革法案を成立させた上で売却し、財源確保が出来ると主張している。郵政株の簿価は約10兆円で、3分の2を売却できれば6~7兆円の売却収入が期待できる計算だ。
だが、その道のりは簡単ではない。2009年の政権交代で郵政株売却の凍結法が成立し、 売却は止まったままになっている。組織を再編する郵政改革法案の成立が株売却の前提になるが、自民党や公明党は同法案に反対だ。
野田佳彦首相は与野党協議を重視する姿勢を示しており、国会での話し合いが進むかがポイントになる。首相と亀井代表との間で交わされた連立の合意書には、郵政改革法案について「各党修正協議での合意を図る」との文言が盛り込まれた。臨時国会での法案成立を最優先課題とする一方、法案修正に否定的な国民新党の軟化を引き出した形で、「野党との修正協議に道が開ける可能性がでてきた」(民主党議員)との声も出ている。
実際、公明党は修正協議に前向きとも伝えられる。一方、自民党は「小泉構造改革路線」の是非を巡る党内対立再燃懸念もあり、今 のところは静観しているが、「復興財源確保」という錦の御旗に、ただ抵抗するというわけにもいかず、公明党の動向に気をもんでいる。