世界中でベストセラーになっている村上春樹の長編小説「ノルウェイの森」に、思わぬ形で「物言い」がついた。
米国の高校で課題図書として同書が指定されたが、2011年8月下旬、保護者からその性描写について「10代の若者には不適切」などと学校に批判が殺到。その結果、課題図書のリストから外された。版元は「圧力に屈したことは残念」などと反発している。
「レズビアンの性描写」が問題視される
「ノルウェイの森」は日本では1987年に出版され、英語版は00年に出版。英語圏でも、すでに数百万部売り上げている。
問題が起こったのは、ニュージャージー州のモンロー・タウンシップ校区。地域内の高校向けに配布された夏休みの課題図書リストの中の3作品について「子どもに読ませるには不適切」だとして苦情が寄せられた。そのひとつが、「ノルウェイの森」だ。
地元紙の「グロスター郡タイムズ」によると、「ノルウェイの森」には「31歳の女性と13歳の女の子によるレズビアンの生々しい性的描写がある」として、保護者から
「10代の子どもにとって妥当だとは思えない。ショックだ」
といった苦情が続出、学校側では8月下旬、問題とされた本をリストから削除した。「ノルウェイの森」以外には、薬物中毒者が乱交にふける様子を描いた「メタンフェタミン」と題した本などが削除されている。
地元紙によると、今回の問題が起こった背景には、課題図書リストからいわゆる「古典」を減らし、生徒の関心を引くための、新しい「とがった」本を増やしたことがある。ただし、校区内の学校で、クレームが寄せられたのは現時点では1校のみだ。他の高校は、リストの中の本の一部には、あらかじめ「薬物やアルコールの使用、いきすぎた暴力、卑わいな言葉などが含まれている可能性がある」といった注意書きをすることで、生徒が選択しやすく工夫をしているという。
版元は「圧力に屈した」と反発
校区の教育長は、
「言葉の一部に不適切なものがあり、本を検討した際に見落としていた。もっと詳細に見ておくべきだった」
と陳謝、今後課題図書リストを作る際には、教職員だけでなく、保護者も選考メンバーに加える考えだ。
一方、ノルウェイの森の米国での版元のクノプフ社は
「課題図書のリストは元々、地域の教員、司書、職員の提案で作られたもので、教育委員会が承認もしている。保護者がこのような重要なフィクション作品を退ける必要性を感じたことは不幸なことで、校区が圧力に屈してプロの教育者による推薦を尊重しなかったことは残念」
とのコメントを発表。校区の対応を批判している。