会社がもつ技能や知識、ノウハウを「伝承できていない」と感じている60歳以上のビジネスパーソンが約4割いることが、産業能率大学の調査でわかった。
定年が近づくにつれて、長い会社勤めの経験から自分が得てきた技能やノウハウをできる限り次の若い世代に引き継いでいきたいと考えている人は少なくない。しかし、なぜかそれがうまく伝わらないようなのだ。
30~40歳代社員大きく減り、「伝承する相手いない」
産業能率大学が実施した60歳以上のビジネスパーソンを対象にした仕事に対する意識調査は、2011年3月下旬にインターネットで実施。400人超から回答を得た。
それによると、会社で「やりたい仕事」を聞いたところ、40.9%が「技能・知識の伝承」と答えた。「社員のメンター役・育成役」も25.8%いて、社員を育てることに携わりたいと考えている人が多いようだ。
ただ、これまで働いてきたなかで得た技能や知識、ノウハウを「社内で伝承できているか」聞いたところ、「伝承できている」と答えた人は61.0%。一方、39.0%は「伝承できていないと思う」と答えた。
「伝承できていない」理由としては、44.4%が「伝承する相手がいなかった」と回答。「伝承することを求められなかった」との回答も37.4%あって、もどかしさを感じている。
こうした結果について、同大学は会社の人員構成が逆ピラミッド型となっていることを問題視。「30~40歳代の社員が大きく減っていて、なかでも1995~2000年の就職氷河期の世代は働き盛りで、本来であれば会社をリードしていかなければならないのに、この層が薄くなっていて深刻です」と指摘する。
また、職場環境の変化も影響。雇用の流動化が進展したことや非正規労働者が増えたことで、社員同士の接点が減ったことや付き合いが希薄になったこともあるようだ。
マニュアル化で「伝承する」雰囲気なくなった?
「伝承することを求められなかった」との回答が多かったことについて、産業能率大学は背景に「業務のマニュアル化」があるとみている。マニュアル化は、いまでは珍しくないが、「そもそもマニュアルは会社に勤めている社員一人ひとりの経験から得られたものが反映されています。いまの若い社員はでき上がったマニュアルにそって仕事をこなすだけで、そのマニュアルがつくられた経緯や背景は伝わりづらい。さらに最近は短期間で成果が求められるようになって、個人から個人へ肌感覚で伝承すること、じっくり後輩に伝えていく雰囲気が職場になくなっています」と分析する。
一方、技能や知識、ノウハウが「伝承できている」と回答した人(61.0%)のうち、「自然と技能や知識を教えあう風土があった」(44.9%)、「意図して技能を伝承してきたため」(43.1%)と、回答した人がそれぞれ4割を超えた。
同大学は、「経験を伝えることはむずかしいことですが、シニア層の埋もれた技能やノウハウを伝承していくためには、意図的に目に見えるような仕掛けをつくり出していくことが不可欠です」という。