「一票の格差是正」は逃げ水か? 小選挙区制の見直し論も浮上

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   野田政権で選挙制度改革は進むのか―― 「1票の格差」が最大2.30倍だった2009年の衆院選を「違憲状態」とした最高裁判決が出てから半年。与野党協議は進展せず、野田新政権に格差是正はゆだねられた。

   野田首相は当面、解散総選挙をしない考えを示している。一方で、中選挙区制復活論など選挙制度を根本的に見直せという考えも広がっており、各党の合意を得るのは容易ではない。

民主案と自民案の調整は不可能ではないが・・・

   事態混迷の主因は民主党のやる気のなさ。7月上旬、早々に党内議論の打ち切りを宣言。意見が割れ、議論を集約できる状況にないからだ。

   民主党は衆院選マニフェスト(政権公約)で「比例定数80減」を掲げた。これに1票の格差是正を加味すると、定数を10都道府県で21増、21県で21減の「21増21減」になる。これは影響が大きすぎるということで、、各都道府県に定数1をあらかじめ配分する現行の「1人別枠方式」を廃止し、比例代表を80減らしつつ、「6増6減」(格差は1.626倍)と「5増9減」(格差1.75倍以下)の2案に。

   自民党は5月に改革案をまとめた。山梨、福井、徳島、高知、佐賀県を各1減で格差は2倍未満になり、選挙区定数が300から295に減る。まずは選挙区改革を優先し、比例代表は第2段階として、それも30減にとどめ、公明党などに配慮する内容。

   民主、自民のこれらの案は、所詮は「格差2倍以内」に収める数合わせで、「両党間で調整不可能な壁があるわけではない」(与党議員)が、ここに来て、むしろ、小選挙区制そのものの見直し論が勢いを増していることが、事態を複雑にしている。

中選挙区制復活? 時代錯誤?

   民主党の渡部恒三最高顧問、城島光力幹事長代理、自民党の加藤紘一元幹事長、額賀福志郎元財務相ら両党ベテラン議員を中心に、中選挙区制復活を目指す超党派議員連盟結成の動きがある。政治評論家の森田実氏は、「政党が非民主化し独裁的になったために、小型のゴマすり役人型の小政治家ばかりが増えた。この罪は小選挙区制にある。中選挙区制に戻さなければ日本の政治は再生しない」(森田氏「論説サイト」8月9日)と、評価する。

   ただ、中選挙区復活を疑問視する声も強い。非自民の細川護煕連立政権で総理秘書官として小選挙区制導入に尽力した成田憲彦・駿河台大教授は中選挙区制を「分配の政治の時代の選挙制度」だとして、そこに戻すのは「時代錯誤」と厳しく批判。ただし、現状の衆参ねじれ問題もにらみ、「ある程度、多党化させたコンセンサス型の政治を形成していくべきだ」との立場から、比例代表の要素を強化するよう主張している(産経8月19日付)。

   実際、公明党が従来の中選挙区制復活論から、成田教授の主張に近い考えに舵を切るという動きも出ている。東順治副代表が8月10日の衆院委員会審議で「小選挙区比例代表併用制を導入したらどうか」と質問。併用性はドイツが採用しており、比例区は政党、小選挙区で個人に投票するのは今の「並立制」と同じだが、各党の議席数は比例の得票数に応じて配分、各党の当選者は小選挙区当選者を優先する。

   また、同党の井上義久幹事長は8月18日読売のインタビューで「連用制」も検討していると表明。これは小選挙区で議席の少ない党に比例議席を優先的に配分する制度。いずれも、比例代表を中心にする考えで、小党も一定の議席が取れるのがポイントだ。

次の選挙で抜本見直しは無理

   野田政権が発足し、当面は震災復興で、与野党協力ムードで進みそう。野田首相も最初の記者会見で、衆院解散・総選挙について「復興は今年中にけりがつく話ではない。経済も引き続き努力が必要で、政治空白を作れる状況ではない」と当面踏み切らない考えを示した。

   だが、ねじれ国会は変わらず、野田内閣支持率にもよるが、野党は早期に解散に追い込みたいというのが基本スタンス。このため、「与野党協力もせいぜい来年度予算成立の来春までだろう」(民主党若手議員)というのが永田町の相場観だ。

   1票の格差を是正しないままでも解散はできるというのが政府の公式の法解釈だが、「今の格差のまま選挙をやれば、今度こそ選挙無効判決が出かねない」(中堅議員)ともいわれる。時間的に、次の選挙には定数の手直ししか間に合わないと見られるが、「次の次」さらにその次の選挙をめどに、小選挙区制の抜本見直しを含め議論が活発になりそうだ。

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