菅首相がぶち上げた「脱原発依存」は、菅首相の退陣とともに消えてしまうのか。それとも政策として次期政権に引き継がれるのだろうか。
新首相を決めることになる民主党代表選告示を前日に控えながら、候補予定者らの原発政策がはっきり見えてこない。「総論は『脱原発依存』に賛成だが…」と奥歯にものが引っかかったような物言いにしか聞こえない候補も少なくない。
「将来的にゼロ」にするかはバラつく
「原発政策の具体論を」。代表選に関連して、朝日新聞は2011年8月26日付朝刊の社説でこう注文をつけた。各候補に対し、菅首相が打ち出した「原発は新増設を認めず、将来はゼロにする」など脱原発依存の3路線について、踏襲するかどうかを明らかにしてほしい、としている。
主要候補らの間では、将来的な「脱原発依存」という総論について反対はなさそうだ。しかし、朝日社説は「(各候補の説明は)無難だが、次のリーダーを選ぶための材料としては物足りない」と具体論を示すよう促している。
代表選の構図の方は混沌としており、告示前日の2011年8月26日午後に入っても、「候補者一本化調整」「新たな候補の模索」などがテレビニュースで報じられるありさまだ。対立の構図が定まらないこともあり、各候補の原発政策の対立軸も今ひとつよく分からないままだ。
各種報道をみる限りでは、出馬が取りざたされる主要候補らの原発政策はこれまでのところ、概ね次のような感じだ。
将来的に原発依存度を下げる、という意味での「脱原発依存」には誰も反対していない。
一方、「将来的にゼロ」にするのか、についてはバラつきがある。馬淵澄夫・前国土交通相は、条件が整えば新規原発の建設もあり得る、との考えを示している。これまで累積した使用済み核燃料をどうするか、といった問題を含め「核とともに生きていかなければならない」状況を直視すべきだということのようで、「ゼロ否定」派だ。
告示から投票まで、たった2日
「ゼロまでいけるかどうかは慎重な検討が必要」と話す野田佳彦・財務相も、言い回しは慎重ながら、ニュアンスとしては「ゼロ否定派」に近いと言えそうだ。
一方、小沢鋭仁・元環境相は2050年を目標に「原発ゼロ」を目指すと明言している。
前原誠司・前外相も「20年くらいかけて原発を減らし、最終的になくすロードマップをつくっていくことが大切」と7月末に述べたことがあるが、その後の発言をみると、むしろ力点としては、当面の一定期間は原発に依存する重要性の方に軸足を移しているようにもみえる。
鹿野道彦・農相らほかの候補は、「ゼロ」問題への姿勢ははっきりしない。単純化すると、「将来的に原発依存度を減らす」ことは賛成だが、「当面は原発を活用」というニュアンスのようだ。少なくとも、自身が首相を務める任期中に具体的にここまで原発を減らしていく、といった意気込みは感じられない。
意地悪な見方をすれば、「数十年後には原発依存度が減っていればいいな。でも私が首相の間はとりあえず現状維持で…。後の人、よろしく」という思惑がにじんでいるように見えなくもない。一方で、馬淵氏のように原発新設の可能性に言及する方が、電気料金や国内生産体制を考えるときに現実的だ、と評価する声もある。
2011年8月26日午後、菅直人首相が正式に退陣を表明し、27日に代表選が告示される。民主党の両院議員総会で投開票があるのは、たった2日後の29日だ。