今夏は多くの原発が運転停止しているため、全国的に電力が不足するといわれた。ところが浜岡原発が全機停止した中部電力は、8月の供給力が平均で2801万キロワット。予想される最大需要(最大電力)2622万キロワットに対する余力(供給予備力)は、原発2基分に当たる179万キロワット。供給予備力は6.8%。これは何を意味するか――。
中部電力は浜岡原発を全機停止したままでも、火力発電所などを有効活用すれば、余力を持って電力を安定供給できるといえそうだ。
自動車メーカーが操業シフトで協力
中部電力の公表データによると、盆休みでトヨタ自動車など多くの製造業が操業を休止した8月第3週(14~20日)は、供給予備力が原発6基分に当たる625万キロワット、供給予備率は28.4%に達した。これは極端なケースかもしれないが、8月第1週が予備力207万キロワット(予備率7.9%)、第2週が213万キロワット(8.2%)、第4週が183万キロワット(6.9%)、第5週が179万キロワット(7.0%)と、いずれも原発2基分の余力がある。9月も第1週が241万キロワット(9.6%)の予想と、8月同様に余力がある。
中部電力は菅直人首相の要請を受け、5月に浜岡原発の全機の運転を停止した。中部電力の原発は浜岡だけだ。このため中部電力は、厳しい電力需給が予想された今夏の月曜日から水曜日の昼間13~16時の節電をよびかけた。その結果、自動車メーカーが木、金曜日の操業を土、日曜日にシフトするなど、一定の節電協力があった。しかし、これは東京電力や東北電力のような法的拘束力のある節電要請ではない。自主的にせよ昨夏ピーク比15%減など数値目標を定めた関西電力の節電要請とも事情が異なる。
火力の炊き増しで対応できる
中部電力はじめ、電力会社は「電力の安定供給のためには予備率が8~10%必要」としている。確かにそれを当てはめれば8月第2、3週、9月第1週などを除き、中部電力は安定供給の目標を達成していないことになる。電力会社は「最低限必要な予備率は3%」としているが、今夏の場合、東北電力でピーク時に3%を大幅に切っても、停電などの支障がなかった。
中部電力が浜岡原発の全機が停止したままでも、電力の供給に余力があるのはなぜか。それは中部電力が東京電力や関西電力に比べ、発電設備(発電所)に占める原発の割合が低く、火力発電の割合が高いからだ。
電気事業連合会によると、発電設備に占める原発の割合は、中部電力が10.7%で、東京電力の26.8%、関西電力の28.4%と比べて低い。これに対して火力発電の割合は中部電力が73.2%で、東京電力の59.2%、関西電力の47.6%に比べて高い。
つまり、中部電力の原発依存度は元々低く、火力発電の割合が高いため、原発が全機停止した今回のような「有事」の場合でも、火力発電所を炊き増せば十分に対応できるということだ。少なくとも中部電力はこのまま浜岡原発が全機停止したままでも、年間を通して供給力に余力があるのではないか。