阪神・淡路大震災の神戸や9.11テロ後のNY貿易センタービル崩落現場などを朝日新聞記者として取材した辰濃哲郎氏が、今度はノンフィクション作家として東日本大震災後の医療の現場に入った。
フリーの取材は厳しい。食事も飲料水も野営の準備も、すべて自己責任。ガソリン不足には悩まされ続けた。苦労を重ねて、極限状況の下で人々の命を守ろうと奮闘する医療の「脇役」たちを訪ね歩いたドキュメント。借りた車で5週間に渡って9000キロを走破する過程での数々の失敗談には、心がなごむ。
夫や子どもの安否が不明であるにもかかわらず、津波の直撃を受けた病院を守った看護師たちは、そこで何人もの幼子の生死と向き合う▽命がけで薬を病院に届け続けた医薬品卸の社員たちは、「医薬品が足りない」という国会議員からの批判の電話に、泣きながら抗議する▽妻がいる避難所が炎に包まれているとき、病院事務長は自家発電機の燃料が底をつく非常事態に、津波に流されたタンクローリーから重油を抜き取る決断をする▽爆発を繰り返す福島第1原発近くの病院では、不安に泣きながら入院患者を看護したナースたちがいた。
細かい情景描写を重ねて描かれたドラマが、説得力を持って迫ってくる。医薬経済社、259ページ。本体1500円。