北朝鮮が、外国人観光客の誘致を積極化している。国営の航空会社が中国からの需要を当て込んで便数を増やし、一部ではビザを免除。日本では問題になった貨客船が遊覧船に衣替えをしたりしている。
背景には、これまで有力な外貨獲得源だった金剛山観光事業が頓挫したことから、新たな資金源を求めているためとみられる。
上海、西安、クアラルンプール路線開設
ここ数ヶ月で動きが活発なのが、国営の高麗(コリョ)航空だ。2011年8月9日に国営朝鮮中央通信が報じたところによると、7月1日に平壌と中国・上海(浦東空港)、7月29日に平壌と中国・西安を結ぶチャーター路線を相次いで開設。8月19日には平壌とクアラルンプール路線も開設予定だ。このうち、上海からの観光客は、ビザが免除されているという。
既存路線についても増便されており、聯合ニュースによると、通常は週2便の瀋陽-平壌便が、週4便に倍増している。
これらの増便や新規路線の開設をめぐっては、8月に開幕した「アリラン祭」のために一時的に増便されているという説と、今後、中国からのビジネス需要が増えることを見越してのものだという説がある。いずれにしても、中国からの需要が伸びることを期待しているのは確かだ。
施設面も向上している様子で、7月15日には、平壌の順安(スナン)空港の新ターミナルがオープンしている。
万景峰号が遊覧船に衣替え
空路だけではなく、海路も動きを見せている。中央日報や聯合ニュースによると、日本から入港禁止の措置を受けている貨客船「万景峰(マンギョンボン)92号」が遊覧船に衣替えし、8月22日から25日にかけて開かれる「第1回羅先(ラソン)国際商品展示会」で、外国企業関係者にお披露目される。
展示会が開かれる羅先は、経済特区としても知られ、中国と共同で開発されることになっている。北朝鮮当局は、将来的には国際的な観光地として発展させたい考えで、主に中国企業や観光客の誘致を狙う。
北朝鮮がここまで観光客の誘致に躍起になる背景の一つに、90年代末から南北で共同開発を進めてきた金剛山観光の頓挫が指摘されている。金剛山観光は韓国からの観光客が北朝鮮に「観光料」を支払う仕組みで、北朝鮮からすれば格好の外貨獲得手段だった。
ところが08年夏に、誤って立ち入り禁止区域に侵入した韓国人観光客が北朝鮮の兵士に射殺されたことをきっかけに中断。南北関係は冷え込んだ状態が続いており、11年7月末には、金剛山に残された韓国側の資産を北朝鮮当局が接収する方針を打ち出すなど、再開は困難な状況だ。逆の見方をすれば、北朝鮮側からすれば、外貨獲得の手段を失ったことにもなる。
その上、12年2月には金正日総書記の生誕70周年、12年4月には金日成主席の生誕100周年行事が予定されていることから、「物要り」になるという事情もあるとみられる。
だが、米政府系の「ラジオ自由アジア」によると、北朝鮮観光の目玉であるはずのマスゲームや「アリラン」に対する関心が例年に比べて下がっているといい、北朝鮮側の狙いが達成できるかどうかは不透明だ。