海江田万里・経済産業相が、まだ「菅直人首相退陣より前の辞任」にこだわっている。菅首相の後継者が月内にも決まりそうな状勢の中、「今さらの辞任に何の意味があるのか」と冷たい空気も流れている。
次期代表選への出馬も取りざたされる海江田氏だが、衆院委員会での「涙」や月刊誌「文芸春秋」への「恨み節寄稿」に加え、今回の辞任騒動も、「首相の器」としての「海江田株」の評価を下落気味にしているようだ。
「さっさと辞めていれば代表有力候補に」
海江田氏は2011年8月12日、鳩山由紀夫・前首相との会談で、菅首相と同じ時期に辞めるわけにはいかない、と菅内閣の総辞職前に辞任する考えを伝えた。13日にも訪問中のインドネシアで、「いずれ辞任は必ずやる」と強調している。
海江田氏は7月7日の参院委員会で、「いずれ時期がきたら責任を取らせて頂く」と近く辞任する意向を示した。原発再開をめぐり菅首相と行き違いが続き、地方自治体などを混乱させた「責任」を指している。
また、原子力損害賠償支援機構、再生エネルギーの両法案可決・成立後の辞任を強く示唆しもした。再生エネルギー法案の方は、菅首相の退陣3条件のうちのひとつと同じだ。
鳩山氏はかねてから、海江田氏に対し、賠償支援機構法が成立した直後に辞任しないと「時期を逸する」と伝えていた。再生エネルギー法成立まで待っていては、菅首相退陣と重なりかねない、というわけだ。しかし、8月3日に同法が成立しても海江田氏は動かなかった。
8月3日夜配信の時事通信記事は、民主党内から「さっさと辞めていれば、ポスト菅の有力候補になっていたのに」との声が出始めたことを伝え、「(衆院委員会で7月29日、)涙を流したことでも評価を落とした」と報じた。「リーダーとしての資質を疑問視する声も漏れている」とも指摘している。
「菅首相への当てつけ」「自己満足」
もっとも、海江田氏に対しては同情論もある。辞任意向の表明後ほどなくして、原子力安全・保安院による原発関連シンポジウムでの「やらせ質問」問題が浮上したこともあり、「今辞任すると、代表選へ出たいがために逃げたと批判される」という状勢になった側面もある、というわけだ。
しかし、海江田氏が「責任を取る」形の辞任のタイミングを逃してしまったことには変わりがない。
「(菅首相から)正直はしごをはずされた思いがいたしました」などと恨み節を展開した文芸春秋の手記では、海江田氏は「私の出処進退は潔くありたい(中見出し)」という趣旨の話も書いている。
この「潔さ」は、菅氏が首相の地位に未練がましく居座ろうとしているように見えていた時期には成立した。
しかし、菅首相がはっきりと退陣への道筋を口にする今となっては、「退陣前の辞任」は単なる「菅首相への当てつけ」「自己満足」程度にしか見えない。「潔くない」のはむしろ海江田氏の方ではないか、という印象すら持つ人もいるかもしれない。
近く行われるであろう海江田経産相の辞任会見で、タイミングを逸し自身が思った通りの形での辞任にならなかったことを悔やんだ海江田氏が、また涙を流しはしないか――そんな突き放した、皮肉混じりの「心配」が永田町内でささやかれている。