野田佳彦・財務相が「ポスト菅」争いに向け、動きを具体化してきた。一方で肝心の菅直人首相の退陣時期は依然不透明なままだ。野田氏以外にも代表選出馬へ意欲をみせる議員はいるが、菅首相に「そろそろお辞め下さい。後は私がやります」と迫る迫力のある「ポスト菅」候補はまだ出ていない。
ポスト菅候補が「菅降ろし」をどこまで真剣にやるのか、それを見守っている――民主党の小沢一郎・元代表は2011年8月2日夜、自身に近い議員らとの会合でこう語ったと伝えられている。
「今日、出馬宣言」が延期になった
自分の手は汚さずに「菅降ろし」を見守った上で、「菅退陣」の成果だけを受け取ろうとしている候補ばかりだ――そんな苛立ちが小沢氏にはあったのかもしれない。菅首相が辞めない限り次期代表選は始まらないのに、というわけだ。
8月9日は、野田財務相がいよいよ出馬宣言をするのか、と注目された。9日に予定されていた野田氏グループの会合で表明される見通しだ、と9日付朝刊の数紙が伝えた。野田氏が出馬の意向を固めた、とは全国紙全紙が報じている。
しかし、9日午前、野田氏は「(本日中の出馬表明は)しない」と記者団に答えた。9日午前は日経平均株価が9000円を割り込む事態となったため、タイミングが悪いと野田氏が表明を見送ったともみられている。一方、野田氏が予定していた発言が、果たして明確な出馬宣言だったのかどうかははっきりしない部分もある。
野田氏は10日発売の月刊誌「文芸春秋」に、「わが政権構想」と題した論文を寄せた。「時期が来れば、私は、先頭に立つ覚悟です」と宣言している。代表選立候補への意欲を示したと読むのが自然だが、「単に仮定の話をしている」とも読める。実際、野田氏は9日、記者団に対し「(出馬については論文に)明確に書いてない」と話している。
こうした「慎重」な言い回しは、一方で、「ポスト菅に手を挙げることは挙げるのだが、菅退陣が仮に半年後ならそれでもいいし、1年後ならそれでも構わない……」といった控え目なメッセージに映らなくもない。少なくとも、小沢元代表が求める「菅降ろし」「菅首相早期退陣」の迫力を伴う出馬宣言ではないようだ。
「出馬の意向」「出馬に意欲」どっちなんだ
馬淵澄夫・前国土交通相と小沢鋭仁・元環境相の2人の代表選へのスタンスをめぐっても、「迫力不足」を指摘する声があがりそうだ。「(2人とも)出馬を表明した」と伝えるメディアもある一方、「(2人とも)出馬へ意欲を示している」とする社もあり、中には「馬淵氏は意向を示し(略)、小沢鋭氏は意欲を示している」と書き分けているところもある。
小沢鋭氏は7月末、自身を中心とする党内グループとして「政権構想」を発表してもいる。それでも、マスコミ各社の表現にいまだにばらつきが出るのは、それだけ馬淵、小沢鋭両氏の代表選をめぐるこれまでの言い回しが、解釈に幅ができてしまうあいまいさを含んだ内容だということの証左でもある。
代表選をめぐってはほかに、樽床伸二・元国対委員長が出馬に意欲的とされるほか、鹿野道彦・農林水産相を推す動きもある。前原誠司・前外相や海江田万里・経済産業相の出馬も取りざたされている。
小沢元代表は、次期代表選で、「菅降ろし」に最も汗をかいた候補に肩入れするつもりではないか、ともささやかれている。ポスト菅候補らが今後、代表選の前提となる「菅退陣」を自身で引き寄せる動きを見せることはあるのだろうか。
一方、菅首相は週刊朝日の最新号の単独インタビューに登場し、「どうにか原子力行政の抜本改革の道筋はつけたい」などの考えを表明している。菅首相のインタビュー内容を受けて記事にした産経新聞(8月8日ネット版)は、「首相の地位に恋々とした心情を吐露」「『退陣3条件』がクリアされても、なお居座りを決め込む公算が大きい」と指摘している。