汚染稲わらを食べた牛の肉から次々に放射能が検出され、国民の不安が高まっている。できるだけ正確な情報を提供しようと、財団法人「食の安全・安心財団」は2011年8月3日、東京で意見交換会を開催した。会場には生産者、研究者、消費者団体、一般消費者、メディア関係者など350 人がつめかけた。
テーマは「放射性セシウムと食のリスク~汚染稲わらによる牛肉汚染の状況と対策」。全般的な状況を報告したのは原田英男・農林水産庁畜産企画課長。7月8日、東京食肉市場に出荷された福島県産肉牛11頭から、東京都が基準値 (1キロあたり500ベクレル) を超える放射性セシウムを検出したのが発端で、飼料の稲わらが原因と分かった。
5県の48頭で基準値超え
稲わらは秋に刈り取って田に置いてあり、3月11日の原発事故後に収集したものだった。農水省の指示で各県が調べると、暫定規制値 (1キロあたり300 ベクレル) を超えて汚染した稲わらが次々に見つかり、宮城県の業者からは15県に汚染稲わらが販売されていた。8月2日現在、汚染稲わらを食べて出荷された牛3498頭のうち730 頭を検査し、5県48頭の肉が基準値を超えていた。政府は福島、宮城、岩手、栃木4県の肉牛の出荷禁止を通達した。
松本光人・畜産草地研究所長は、牛の胃で微生物による発酵が維持されるには稲わらが重要な役割を果たすこと、稲わらが肉の品質向上(霜降り肉が増え、脂肪が白くなる)のため欠かせない飼料であることを解説した。
また、日本学術会議副会長の唐木英明・東京大学名誉教授は「基準値や規制値を、安全と危険の境と誤解している国民が多い」と指摘した。唐木さんによると、セシウムの基準は、食品全体で年間5ミリシーベルトを超えないように決められた。具体的には水、乳製品、野菜、穀物、肉や魚などの5食品群を各1ミリシーベルトまでとし、牛肉の消費量に割り当てて1キロあたり500 ベクレルの計算になった。
この放射線量は1キロあたり0.008 ミリシーベルトになる。「基準の10倍の牛肉を毎日1キロずつ63日間、食べつづけて、やっと食品基準の5ミリシーベルトに近づく。100 ミリシーベルト以下の放射線で起きる発がんのリスクは、ほとんど無視できるレベル。規制値はそれだけの安全幅を見込んでいる」と、唐木さんは強調した。
配付された資料によると、セシウム137 の放射線量が半分になる物理学的半減期は約30年だが、体内に入った放射線量が排泄されて半分になる生物学的半減期は、1歳までは9日、9歳までは38日、30歳までは70日、50歳までは90日となっている。
(医療ジャーナリスト・田辺功)