東京都内の中堅出版社が、日本人大リーガーの放映権転売を持ちかけられた詐欺で、16億円余の被害に遭っていたことが分かった。なぜこんな巨額がだまし取られたのか。
被害に遭ったのは、少女コミックやアダルト雑誌などを出している東京都台東区の笠倉出版社だ。
しばらくは配当が支払われる仕組み
報道によると、笠倉出版社は、広告会社「メディアバンクオフィス」の幹部2人から、田口壮外野手、斎藤隆投手らメジャーリーガーの放映権を大手広告代理店に転売すればもうかると投資話を持ちかけられた。そして、2004年7月から06年11月にかけて、20数回にわたって、総額26億円をも幹部らに支払い、うち16億6000万円が回収不能になった。
この幹部2人は、警視庁捜査2課と上野署に11年8月3日、出資金の名目で06年10~11月に3000万円をだまし取った詐欺の疑いで逮捕されている。
笠倉出版社は、1975年に設立された中堅出版社だが、なぜこれほどまでの巨額詐欺に巻き込まれてしまったのか。
それは、しばらくは配当などが支払われる仕組みになっていたことがあるらしい。
例えば、幹部らは、放映権を2億3000万円で買い付け、広告代理店に5億3000万円で転売するとし、差額の利益3億円の8割を配当すると約束。出資金返済分なども含め、実際に笠倉出版社側に支払われていたため、9億4000万円分が回収できたようだ。
また、ある選手の放映権を大手広告代理店が買い取るとした偽造の契約書を作り、それを笠倉出版社側に見せて信用させていたこともある。さらに、守秘義務があるとして代理店側に連絡しないよう約束させていたことも、事件の発覚を遅らせた。
出版社「コメントは差し控えさせて下さい」
ところが、2006年6月ごろから、出資金の返済や投資への配当が滞るようになった。不審に思った笠倉出版社が、転売先とされた大手広告代理店に問い合わせたところ、転売の事実はないことが分かった。その後、笠原出版社は09年12月になって、メディアバンクオフィスの幹部2人を刑事告訴している。
東京商工リサーチの情報部によると、笠倉出版社はそれまで、毎年30億円以上の売り上げと2億円以上の利益を出していた。しかし、08年2月期の決算からは、売り上げはそれほど変わらないものの、利益は大幅に減り、09年2月期には、3億5000万円の赤字にもなっている。
なお、10年12月には、綾瀬はるかさんら女性タレント21人が写真を無断で雑誌に転載され、肖像権を侵害されたとして、笠倉出版社に計約2300万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている。
笠倉出版社の総務担当者は、取材に対し、報道された事実は認めながらも、「警察が捜査しているところですので、会社としてのコメントは差し控えさせて下さい」と答えた。総額26億円もの投資を、蓄えた利益や資金借り入れなどからねん出したのかどうかについても、「今後は裁判になりますので、現時点ではお答えできません」と話している。