「日立・三菱重工 統合へ」 日経報道は大スクープか、フライングか

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   日本経済新聞が2011年8月4日付の朝刊で、日立製作所と三菱重工業が「経営統合へ向け協議を始めることで基本合意した」と特報した。大半のメディアが早朝から日経記事を後追いし、ほぼ同内容のニュースを流した。

   しかし、両社は相次いで「一部報道」に対し否定コメントを発表。昼のニュースや夕刊で各社が大きく扱いを修正、「空前のスクープ」にブレーキがかかった。本当は、どうだったのか。

「追っかけ」記事が相次ぐ

日経が1面で大々的に報じた。
日経が1面で大々的に報じた。

   日経は朝刊で、1面(東京最終版)の大半のスペースを使って、「日立・三菱重工 統合へ」と報じた。見出しは「横カット2段ぶち抜き」。新聞でこれ以上大きな見出しを見ることはまずない、というほどの大きさだった。

   日経記事によると、日立と三菱重工が「経営統合へ向け協議を始めることで基本合意した」。2013年春に新会社を設立し、両社の主力の社会インフラ事業などを統合するという。「世界最大規模の総合インフラ企業が誕生する」としている。背景として、3月に起きた東日本大震災と福島第1原発事故を受け、両社の経営環境が激変したことを指摘している。

   8月4日は、朝から日経記事の「追っかけ」ニュースがテレビやインターネット上で次々流れた。

   「経営統合に向けた協議開始で基本合意したことが4日、分かった」(共同通信)、「13年春をめどに主力事業を統合して新会社を設立する方向で交渉している(略)」(読売新聞、ネット版)、「共通する事業の統合に向けて協議を進めている(略)」(TBS)といった具合だ。

   NHKは、「エネルギーや社会インフラなどの事業を統合する新会社を共同で設立することについて、検討に入る(略)」と午前中に報じた。

   朝日新聞の同種記事をネットで検索すると、朝早い段階で「広範囲な事業の統合を検討することで基本合意した(略)」とする記事をネット配信した模様だが、ほどなく、記事全文を読もうとクリックすると「お探しの記事はみつかりませんでした」と表示される状態になった。いったん流した記事を消去したと考えるのが自然なようだ。

   朝日新聞はその後、正午前になって「社会インフラなど一部の事業の統合に向けて交渉していた(略)」との表現で報じた。新記事では、「正式発表に向けて最終的な詰めの作業を進めたが、意見の相違も大きく、今回は合意できず、予定していた4日の発表は見送る」と指摘した。NHKも正午のニュースでは、一切触れなかった。

   朝日記事は、日経記事と比べると慎重な書きぶりだ。「一部の事業の統合」(朝日)と「経営統合」(日経)、「交渉していた」(朝日)と「基本合意した」(日経)、などの点が異なる。

両社は否定コメント

   一方、日立と三菱重工はそれぞれ、「一部報道」に対する否定コメントをこの朝、早い段階で発表し、ほどなく自社サイトにも掲載した。日立は「そのような事実はありません」とし、三菱重工は「報道された統合について、当社が決定した事実もありませんし、合意する予定もありません」と書いている。

   経営統合や大規模な事業提携は当該企業のトップシークレットだけに、一般的には、正式に発表される前の段階の情報について、企業側が「とりあえず」否定コメントを出すことは珍しくない。報道を否定はしたが、数週間後あるいは数か月後に結局、報道通りに事態が進む、というわけだ。勿論、報道が間違っている場合もある。また、記事が発表前に出ることで事態が変わってしまうこともある。

   両社の広報担当部局にきいてみた。

   日立は「両社の経営統合、といったような大がかりな話は一切ない」「これまでも、両社は個別事業では協力しており、今後も協力を継続することは検討している」と回答した。

   三菱重工は「経営統合の話はなく、記事で書いているような『一部』の事業統合もない」と説明した。両社のコメントでは微妙に三菱のほうが厳しいニュアンスだ。

日立社長「きょう夕方発表しますから」

   しかし、日立の中西宏明社長は8月4日早朝、テレビカメラを前にして、「統合という話があるが」などの問いかけに対し、「これはまた、きょう夕方発表しますから」と答えていた。車に乗り込んだ後も、「協議ということでよいか」ときかれ、「はい」と明言した。少なくとも日立の社長は「発表」について前向きだった。

   8月4日午前の株式市場をみると、日立と三菱重工の株価はそろって反発した。日経(電子版)は「経営統合へ向けた協議で基本合意と伝わり、相乗効果による競争力強化に対する期待が高まった」と報じたが、午後の株価は伸び悩んだ。

   4日午後の夕刊(東京最終版)をみると、「日立が将来の経営統合を視野に入れているのに対し、三菱重工は部分的な事業統合にとどめたい意向で、交渉は難航している」(読売新聞)、「統合に向けた協議は煮詰まっておらず、交渉が難航する可能性もありそうだ」(毎日新聞)と慎重な記述が増えている。

   一方、日経新聞は「新会社、折半出資で 日立・三菱重工、近く統合準備委」などと粛々と続報を伝えている。ただ、朝刊にあった「4日午後の発表」については、「統合を先行させる事業などの調整が残っており、4日夕に予定していた両社首脳による記者会見は5日以降に先送りすることを決めた」としている。

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